さてゴードロッズ消防局とは文字通り暗黒シティにおける消防屋さんのことである。
 市長軍には大まかに三つの部署があって、その中の一つが暗黒シティ警察組織ゴードロッズと呼ばれる。
 主任務はその名の通り犯罪者の取り締まりであるのだが、実は消防やお役所仕事なども受け持っている。
 軍が役所仕事を受け持つのも変な話で、ゴードロッズを市長軍から独立させようという動きもあるのだが、それがいまいち進んでいないのは様々な利権や利害が絡み合っているせいだろう。

 さておき、目の前の彼女はその消防局からの転向らしい。珍しい話ではある。なにせうちとゴードロッズは犬猿の仲だし。
「まあ、そういうことでしたらすみませんね。部下が歓迎の方法を間違えたようで」
 頭を下げながら俺。正直どっちが悪いのか微妙な気もするが、こういう揉め事はさっさと丸く収めるに限る。あとは野郎どもを適当に宥めて、彼女を客室に案内すればよかろう。
「いえ、謝罪には及びません。これからは同僚となる方々ですし」
 と、彼女も謙虚であったのだが、
「それにまだ勝負は終わっていません。次の相手はあなたでよろしいのですか。ユニックス=F=オディセウス様」
「え?」
 あっけらかんと続けた彼女にちょっと戸惑う。
「俺も戦うの?君と?」
 俺の問いかけにこくんと頷く彼女。
「それは、どういうこと?俺は揉め事が始まったときこの場にいなかったんだけれど」
 故にこれはあくまで彼らと彼女の喧嘩。そこにあとからきた俺が加勢するのは、彼女にとって卑怯なのではあるまいか?
「問題ありません。戦場では敵の増援が現れるのは日常茶飯事ですし。何よりお忘れですか。この戦いに私が勝てば私は彼らの上司になるのです。本来の上司であるあなたを無視してそのような話を進めるのはフェアではありません」
 そーいうものだろうか?俺としては全然ありなのだけれどな。彼女がトップを務めてくれるなら俺は楽ができるわけだし。やっぱ男は使う側よりも使われる側に回るに限る。美少女の上官とか大歓迎。
「あー、でもな………」
 ふと気づく。このまま何もせずトップの座を明け渡したとあっては、ちょっとパーパロウが怖いかもしれない。というか間違いなく彼の逆鱗に触れるだろう。そうなればライオンアッパーカットで済ませてもらえるかどうか。下手したら音速スクリューパイルドライバーで頭蓋骨粉砕。遅まきながら犠牲者リストの仲間入り、ということもあり得る。
「さて、どうしたものか……」
 正直あまり見たくない未来ではある。それに加えてわざわざ自分が不利になるような条件を突き付けてくる彼女もよくわからない。一方で周囲の野郎どもは「頼む仇を討ってくれユニオ隊長」と期待の眼差しを向けてくるわけで。
「う〜ん……?」
 どうしたものだろうか。いずれにせよ一度彼女の相手をしなければおさまらないか?
 このまま放置しては後の彼女と彼らの関係にも差支えが出る気がするし。
「………それでは、お相手しましょうか?ユーリシアさん」
 気が乗らないながらも十日ぶりに剣を抜きながら俺。
 まあ、とりあえず戦って、きりのいいところで負けてしまえばいいだろう。そうすれば上の連中に対する言い訳もたつし、野郎どもも彼女のことを認めるかもしれない。
「それで、先に降参した方が負けでいいのかな」
「はい。あるいは先に死んだ方が負けということで」
 そう答えて、彼女は両腕を左右に広げる。

 そんな感じで俺は目の前の少女と剣を交えることになったわけだ。
 のちに白銀の騎士ユーリシアと呼ばれる彼女と。
 ああ、この時点でオチが読めたとか言わないでほしい。
 まあ、ありきたりな展開ではあるけどさ、そのあたりに考えが至らない程度には俺も疲れていたのだろう。

 なにせこの前愛しの女神様と、死に別れたばっかりだったしね。