結論から言うと前者。揉め事の方だった。
「しかしこれは……」
 どういうことだろう?
 400uほどの庁舎前広場に散乱する倒れた野郎どもが二十人程。その周囲、広場の端っこに立ち尽くす野郎どもが同じく二十人程。倒れている者たちは全員血まみれで、中には苦悶の表情で呻いているものもいるが、まあ全員息があるようなので良しとする。
 で、意識のある者達は自分たちの中心、広場の中央に立っている者を睨みつけていた。
 蒼いスーツを着て、絹のような美しい白髪を持つ麗しい女性。
「君は………」


 無論俺の部下というわけではない。身長は160前後。年齢は十代後半か。しかし落ち着いた表情と眼鏡をかけているせいで、それ以上に大人っぽく見えなくもなかった。
 彼女の周囲には、きらきらと輝く銀色の粒子が漂っている。
(あれは硝子?いや………)
 俺が彼女を観察している間にも、野郎どもは悔しそうに彼女を睨みつけていた。
 それで、大体の察しはついた。
「あー、はじめましてお嬢さん、お怪我はありませんか?俺の部下が失礼をしませんでしたかね」
 挨拶と共に問いかける。
 問題はどちらが先に手を出したかだろう。火事と喧嘩は暗黒シティの華、といいつつも、一対多数で女性を襲ったとなれば話が変わってくる。
「………………」
 そんな俺の問いかけに、しばらく少女は沈黙していたが、
「失礼、というのはどのようなことでしょう。暴力的、もしくは脅迫恐喝行為などを指すのですのでしょうか」
 数秒後、淡々と問い返す彼女。
「あるいは窃盗、詐欺などの軽犯罪も含まれるのかもしれませんが、いずれにせよ答えはNOです。ここにきて5分間、私が彼らに犯罪行為を受けた事実はありません。いえ、彼らのセリフのなかに、若干セクシャルハラスメントに類するものはありましたが、私自身が問題視しておらず起訴する意思がない以上、この場においては不問とするのが妥当でしょう」
「………………」
 なるほど。いろいろ突っ込みどころはあるが、どうやら俺の部下が失礼をしたというわけではないらしい。しかしそうなると、
「もしかして君の方から彼らに喧嘩を売ったとか?むしろ彼らの方が被害者?」
 実は秘密結社からの刺客だったとか。まあ、受付通って正面から来るテロリストとかあまり聞かないけど。
「それも事実とは異なります。私がここに来たのはゴードソーズへの転属手続きのためです。申し遅れましたが、私はこの度ゴードロッズ消防局から転属することとなりましたユーリシア=クリスタレッジと申します。年齢は17歳。血液型はAB。所属番号はB-14864‐21451‐46627です」
 なるほど、消防局からの転属ときたか。しかし、あちらでは一度話し出したら息継ぎをしてはいけない、なんてルールでもあるのだろうか。
「そのため本日は書類申請のために来ました。その際受付でそちらに倒れられている軍曹さんに事情を説明したところ、お前のような華奢な女に治安維持部隊が務まるか。さっさと消防局に帰れ、なんなら俺の女にでもしてやろうか、などと言われましたので、お気遣いは無用です、これでも腕は立つつもりです。この場にいる皆さん程度だったらまとめて相手をできるとおもいますが、とお答えしたところ、皆さんいきり立って、上等だこのアマ、やれるものならやってみろ、俺たちに勝てたらここのボスにしてやるよと私に剣を突きつけ、10秒後交戦状態に突入しました」
 なかなか愉快なことを言っている気もするが、淡々とした口調のせいでいまいち状況を脳内再現しにくい。もう少しイントネーションをつけてくれた方が臨場感も増すと思うのだが。
「2分後彼らの半数である20人の撃退に成功しました。残りの20人を相手にしようとしたところであなたが現れました」
 さっきの剣戟や怒声はそういうことだったらしい。
 少々早まったな、と思う。せめてコーヒーの一杯でも飲んでから来れば、もう少し状況が片付いたところに立ち会えただろうに。
「以上が、ここまでの顛末です。ご理解いただけましたでしょうか。市長軍四獣王第2位にして所属番号45654575-4854855-16865653-654684546、血液型はAのユニックス=F=オディセウス様」
 軽く頭を下げながらユーリシア嬢。その間も透き通った視線はまっすぐに俺を向けられ逸らされることはない。
 もしかするともしかしてだがこの少女………、新手のストーカーではあるまいか?