「………っ」
震える大地。舞い散る光の粒子。廃墟都市に巨大な光の渦が巻き起こる。
その中心で……、私の中で長い間眠りについていた、9つの兵器が目を覚ました。
それは、私がこの街から旅立つ際託された、兄たちの遺産。
かのドクターケンによって作られた、DGシリーズ初期ナンバー専用装備。
すなわち―――、
「1番兵装 並行世界干渉鏡 ヒミカ
2番兵装 大気制御翼 フェネクシア
3番兵装 魔導ナノマシン リオン
4番兵装 投影システム エディスン
5番兵装 未来制御コンピューター ディムアント
6番兵装 電獣 ストランガー
7番兵装 可変金属 ナナリウム
8番兵装 魔導図書館 ラセペディア
9番兵装 暗黒シティ制御権 DGシステム……!」
それこそがDGアームズ。
亡き兄たちから譲り受けた、彼らの象徴ともいえる超兵器。
剣、翼、本、鏡……。黄金色の輝きを放つ九つの超兵器が、今ここに顕現する。
「全DGアームズ起動確認。コード・フルアーマーグレイナイン、アクティブ」
それらが放つ総エネルギー量は、全盛期の私のそれを優に上回った。
これらを使いこなすことができれば、私は暗黒シティのトップクラスの戦士とも互角以上に渡り合えるだろう。
しかし、
「ぐ、ぐぐぐ……!」
超兵器から流れ込む強大なREIは、私の体に大きな負荷となって圧し掛かった。
当然である。本来DGアームズはその強力さゆえ、一つずつでも扱うのに手こずる暴れ馬なのだ。
それを私は9機同時に展開した。本来だったら、肉体が負荷に耐え切れず、爆散してもおかしくない。
はたして霊布で押さえつけているとはいえ、どれだけ肉体が持ちこたえてくれるか。下手すれば自滅するだけである。
それでも―――、
「今は、これくらしないとね」
でなければ、到底勝ち目はない。
およそ千年先に造られた彼との戦力差を埋めるためには、これくらいの無茶が必要なのだ。
しかし、
「なるほど。それが、貴様の切り札というわけか、DGナイン」
これだけ強大なREIを放つ超兵器を前にして、なお彼は冷めたものだった。
「それで? それがどうしたというのだ。よもやそんな玩具を使えば、俺に勝てるとでも思っているのか?」
冷めた声でDミリオン。まあ、予想通りの反応ではあった。
私だってわかっている。仮にこのDGアームズを用いたところで、“本来”私に勝機などない。
いかにDGアームズが千年前の超兵器であるとはいえ、この時代においては、私と同じ骨董品だからだ。
それでも……、
「大丈夫。私は勝てる」
自分に言い聞かせる。
だって、そうだろう。
千年分の性能差? そんなものは問題にならない。
この程度の戦力差。あの人にとっては日常茶飯事だったはずだからだ。
私が尊敬していた彼。自分よりもはるかに上回る力を持つ英雄たちを、容易く屠ってみせた黒マントの英雄。
私はこの千年間、ずっと彼の背中を追い続けてきたのだ。
結局、私は彼に追いつくことはできなかったけれど……、それでも少しくらいは近付けているだろう。
少なくとも、目の前の彼を、容易く屠れる程度には。
「やはり貴様はここで消えるのだな、DGナイン。その旧人類のような不条理な思考。俺が築く新世界にはふさわしくない」
そう言った彼の全身が、紫色のREIに包まれる。
天地を震わせる程強大なREIは、少なく見積もっても、今の私の十倍以上。
おそらく、彼が初めて見せる本気の姿なのだろう。
「我が求婚を拒んだ愚かしさ。後悔しながら死んで行くのだな」
「それは私のセリフだよ、Dミリオン。いい加減、君たちはその傲慢さを反省した方がいい。
―――あとついでに、この際だから言っておくけどね。さっきから求婚求
婚、君は言うけどさ……」
一秒後に迫る攻撃に備え、全アームズを展開しながら私。
「あいにく自分はすでに千年前、夫を持ち、子を産んだ身だ! 再婚の予定はない! 聞き分けのないお子様には、きつくお灸を据えるまでだよ!」
そう。だからこそ、尚更私はこの世界を放っておけないのだ。
よりにもよって、自分の子孫と弟たちが殺し合う世界。
この世界をこのままにしたままでは、私の生涯という旅を終えることができない。
故に、
「先生、マスタ、ジュージ君。そして暗黒シティの英霊たちよ。
この不出来な自分に加護を与えたまえ。
自分は今一度、旅に出ます。おそらく、これが自分にとって最後の旅。
失われた夢を繋ぐため、新たな夢を紡ぐため、自分は残された全てをささげましょう」
極限まで高まった紫色のREI。
それは次の瞬間、流星となって私に迫りくる。
「光に散れ、グレイナイン!」
迫りくる輝きを、私は9つのアームで迎え撃ち、
「目指すは新人類たちの本拠地、聖地ノア! この身は全ての夢のために!
いざ、黄金探偵グレイナイン・KZ・ドリムゴード、参る!」
直後、激突する巨大な二つの光。
凄まじい衝撃が、廃墟都市を揺るがした。
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