「すべては連中の自業自得だ。旧人類共は自らの不完全さから目を背け、優秀な我らを排除しようとした。
 その愚劣さ、醜さ。やはり奴らは我らの創る、新たな世界に相応しくない」
 吐き捨てるようにDミリオン。
「だから排除しようってこと? でも分からないな。そんなに不完全を嫌うなら、なぜ君は自分に戻れというのかな。
 正直、自分もまた人間に負けず劣らず、不完全なつもりなんだけどね」
 実のところ、彼とはこれまで数回戦ってきたが、その度に自分達の下に戻るよう促されてきた。
 その気になれば私など簡単に破壊できただろうに、あえて見逃されてきた節もある。
 彼の価値観からしたら、自分もまた廃除対象と見なされて当然のような気もするのだが。
「それは……、貴様が我らにとって特別な存在だからだ」
「特別……?」
「そうだ。貴様はただの旧式の人形ではない。我らを引き付ける何かがある。貴様が我らのルーツだからか。失われた何かをもっているからか……。最新の我らでさえ、貴様の存在を無視できん。貴様の言葉に耳を傾けてしまう」
「それは、どういう」
「故に貴様を手元に置くことは、“我ら”にとって重要な意味を持つのだ。貴様が誰を選ぶかで、世界の命運は決まる。我ら6人のうち、誰が真の王となるのかも……」
 渋い表情で彼。そこには普段彼が見せない憂いのようなものが見て取れた。
「ゆえに俺のもとに来るのだ、グレイナイン。貴様は我が伴侶として、新たな世界の創造の手助けをする義務がある」
「義務があるって言われてもねえ……」
 ため息をつきながら、私。
 正直、彼の話は飛び飛びすぎて、ついていくのが大変だった。
 重要な部分を端折りまくりというか、彼の頭の中で話が完結しすぎというか。
 いや、彼自身は順序立てて説明しているつもりなのだろうが……、どうにも新人類様の説法は、高次元過ぎて旧式の私では理解するのが難しいらしい。
 ―――やむを得ず、
「しかし伴侶と言われると、まるでプロポーズをされているようにもきこえますな」
 そう、茶化したのだが、
「? だからそう言っているのだが」
 と、真顔で肯定された。
「………………、は?」
「だから貴様は我が妻となるのだ、グレイナイン。そして俺ともに新世界の神となれ」
「はいいいいいいい!?」
 素っ頓狂な叫び声をあげてしまう私。
「え? 何、なんだって」
 思わず聞き返してしまう。
「聞き違えたかな? 気のせいか、今君に、妻になれって言われたような」
「だからそういったのだが。貴様は俺の妻となり、新人類の女神となるのだ」
「いやいや、なんで!? 何をいきなり!?」
「別におかしな話ではないだろう? 貴様は我らが新人類の祖ともいえる存在で、俺は最新にしてもっとも優秀な新人類だ。二人が夫婦となって世界を支配することは極めて合理的といえよう」
「いやいやいやいや、おかしいって。どのあたりが合理的!?」
 まったく理解できない。一体彼は何を突然いいだすのか。
 どこからどう飛んだらそういう話になるのか。
 あまりに突拍子もなさ過ぎて、どこから突っ込みを入れればいいのか、迷うほどである。
 しかし、
「それに聞くところによれば貴様はこの千年間独身だったというではないか」
 私が混乱する一方、あくまで淡々と彼。
「確かに貴様ほどの女傑に釣り合う男など、そうはいないだろう。しかし、世間一般の常識に照らし合わせて考えるのなら、いい加減身を固め、家庭に入るべきではないか?
 そんな時、新人類で最も優れた俺がプロポーズをしてやったのだ。断る理由などどこにもあるまい?」
「あるまい、じゃなくてだね……」
 頭が痛い。
 いったい彼はどの口で、常識などとぬかすのか。
 どのような思考回路をしていれば、そのような結論になるのか。
「それも、よりにもよって結婚しろって」
 いっそタチの悪い冗談なら良かったのだが、彼の目は紛れもなく真剣なそれである。どうやら彼は本気で、私のことを嫁にしたいらしい。
「だからどうして……」
 まったくもって意味不明だが、案外彼視点で見れば合理的な話になるのかもしれない。

       新世界を支配するにはグレイナインの力が必要だ
                      ↓
               一緒の時間が増える
                      ↓
              夫婦になるのが効率的だ

 ―――みたいな。
「いや、それにしたってだね……」
 なぜこうも極端なのだろう。なぜ優秀な頭脳のくせして、こんなぶっ飛んだ結論が出るのだろう。
 ……でも、ひょっとしたらこれこそが、新人類が抱えている問題なのかもしれない。
 彼らは人間より優秀である代わりに、いろいろなところでアンバランスなのだ。

 なまじ、生まれたときから優秀である彼らは、誰の手も借りず何でもこなせてしまう。
 だから他人の大切さがわからない。簡単に人の命を奪えてしまう。効率だのデータだの、そんなものばかりを優先してしまう。
 そんなことだから、まっとうな常識が身につくこともないし、千歳年上のババアに平気でプロポーズできてしまう。
 あまりに優秀で、あまりに幼い。

 昔だったら人間という“面倒くさい人たち”と付き合う中で、いろんなことが学べたのだろう。
 でも、今はそれもできない。彼らに常識を教えてくれる人たちはいない。
 例えるなら、今の世界は巨大な幼稚園。
 園長先生不在の中、子供たちが幼稚な正義と理想を掲げ、世界を変えようとしている。
 その先に待つモノは何なのか……。正直あまり、よろしくない未来が待っている気がする。