「さてラッピング、ラッピング……」
そんなわけで、みんなが悪巧みをしているうちに、私のチョコが先に完成してしまった。
バレンタインもこれで何度目か。大分チョコづくりの手並みもよくなってきたと思う。
……というか、日ごろからお菓子や料理を彼に振る舞っているせいで、料理の腕前ならなかなかのものになっていないか、私。
「いや、実にいいことなんだけれどね」
やっぱり彼に喜んでもらえるのは嬉しいし。
彼を喜ばせ、彼を幸せにすることが、この十年間の私のほぼ全てだったから……。
ちなみに、余談ではあるが剣太郎くんだけでなく、私もクラス内で中立的存在になりつつある。
なんでも私が参戦すると、戦力バランスが崩れ、女子陣営が勝ちすぎてしまうのだそうだ。
そんなわけで、最近では戦いになると参加することもなく、レフェリー役を任されることが多い。
まあ、特別暴力を振るうのが好きというわけじゃないから、別に良いんだけれど、お祭りに参加できないみたいで、ちょっと寂しく思うこともある。
さておき、
「明日になったら戦いが始まるだろうし。今日の内に渡しておいた方がいいのかな?」
ハート型のボックスを組み立てながら私。
闘いが激しくなることもありうるし、巻き込まれて、チョコが割れたりしたらシャレにならない。
ならば明日渡すことにこだわる必要もないだろう。
「というわけで、中庭で待っています……、と」
そう、彼に呼び出しのメールを打っていたところで、
「あら。まだ完成していないのではありませんか。優輝さん」
と、横から声をかけられた。
「―――小唄ちゃん?」
いつの間にやら、私の横に立っていたのは、眼鏡をかけた黒髪の少女。緒乃川小唄ちゃんであった。
見た目良し、成績良し、性格控えめと三拍子そろった、私の親友の一人である。
「完成していないって何が……?」
「チョコレートの表面のことです。いつもだったらホワイトチョコでメッセージを書いていたのではありませんか」
「ああ、そういえば……」
忘れていた。
確かに例年はチョコの上に、ホワイトチョコでメッセージを書き込んでいたんだっけ。
愛ラブ剣太郎だの、剣太郎くん大好きだの。まあバレンタインチョコにおける定番メッセージである。
「よく覚えていて……。でも、必要かな? 大事なのは味だし。結局食べちゃうんだから、あってもなくても、変わらないような?」
「必要不可欠です。むしろバレンタインチョコに限っていうのなら、メッセージの方が重要かと。……というか優輝さんはバレンタインというものを、剣太郎さんにおいしいチョコレートを食べてもらう日、と思っている節がありますね」
「そうかな……?」
まあ、言われてみれば、そうかもしれない。
剣太郎くんにおいしいチョコレートを御馳走し、喜んでもらう。
私にとってのバレンタインとはそういうものだった。
「完全に保護者の思考ですね……。バレンタインがどういう日か知っているくせに、自分はそれと無関係だと思っています」
困ったようにため息を吐く小唄ちゃん。
「やはり、私がしっかりしなければなりませんね」
「小唄ちゃん……?」
「なんでもありません。ともかく、メッセージはあった方がいいと思いますよ。その方が彼も喜ぶと思いますし」
「そうなのかな?」
まあ、そういうことなら書かない理由はない。
とりあえず、チョコペンを手にする私。
「しかし、なんて書こう?」
改めて書こうとすると、何を書けばいいか思いつかない。
そもそも、普段から伝えたいことは、その場で伝えているしな。私。
「剣太郎くんへ、だけじゃ寂しいから、日ごろのご愛顧に感謝します、とか? いや、それだとスーパーのチラシっぽいから、やっぱり、いつもありがとう、が無難かな……」
「……それだと、今度は父母の日みたいですね」
と、横から小唄ちゃん。
「せっかくのバレンタインデーなのですから、もう少し好意や愛情を前面に押し出す方がよろしいかと」
「なるほど。好意や愛情か……」
思えばバレンタインはそういう日である。
となれば、私の有り余る彼への好意を、そのままメッセージにすればいいわけだ。
しかしそうなると………………。結局、何を書けばいいのだろう。
「………………。どうしても思いつかないようなら、去年までのメッセージでもよろしいかと。剣太郎くん大好きとか、アイラブユーとか、あなたらしくシンプルでいいと思いますよ」
「なるほど。それがあったか」
大好きだ。愛している。
バレンタインのメッセージとしても相応しいと言えるだろう。
しかし、
「ん〜〜〜〜〜?」
何故だか私は、それを書くことをためらいを感じていた。
「どうしました? そもそも常日頃から、あなたは彼にそんなセリフを言っていたはずですけど」
「いや、まあそうなんだけれどね」
しかし改めて書くとなると若干照れる。
何故だろう。小唄ちゃんの言う通り、大好きだーとか、愛してるーとか、もう何百回と口にしてきたことなのに。
「あれあれ……?」
なのに、なぜ今更躊躇うのだろう。シンプルかつストレートな感情表現こそ、私の美徳じゃなかったっけ。
「ふう。ようやっとですね」
ほっとしたように小唄ちゃん。
「…………?」
気のせいだろうか。いま、彼女が小さく、ガッツポーズをしていたように見えたのは。
「あ、そういえば」
そんな彼女を見てひとつ疑問が頭に浮かんだ。
「小唄ちゃんは剣太郎くんにチョコレートをあげるのかな? さっきから何も作っていないように見えるけど」
「はい、私はまだ返事保留中ですから。いま私がチョコレートを渡したら、彼も困ってしまうでしょうし」
「あー。そうだったね」
そうだ。私も知っていることだった。
彼女は剣太郎くんからの返事を待っている最中なのだ。
なぜなら彼女は剣太郎くんに告白したから。
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