「どうせだったらアルコールよりも唐辛子とかのほうがよくね? 戦いの前に戦力を削ごうぜ」
「だったら爆竹の方が効果的じゃない? 花火とかも綺麗でいいかも」
「素晴らしい。では、そのあとチョコレートで生き埋めにするのはどうでしょう」
「だったらショベルカーの手配をしておかないとね。でも、それだとコストがかかりそう」
「ならばチョコレートの代わりに、マシュマロを使ってみては?」
「それだ!」

 キシシシと笑い合う少女たち。実に瑞々しい笑顔である。
 まあ、活気があるのはいいことか。そういえば去年の戦いも凄まじかった。
 昼ごろに始まったバレンタインパーティー。メイド服姿で男子を接待する女の子達。―――とみせて、油断したところを背後から別動隊が強襲。
 飛び交うボーリング玉大のチョコボール。鼻血を吹いて倒れる男子たち。
 作戦は見事成功し、近年まれにみる女子陣営の大勝利に終わった。
「んー。でも、あれはあれで、ある種の敗北だったような?」
 勝負に勝って、女として負けたというか。何もバレンタインでまで血を流すこともなかったような。
 いい加減、普通のバレンタインに戻ってもいい気がするのだけれど……?

 ピー ピー ピー

 と、思い耽っていたところで、冷蔵庫脇にあるタイマーのアラームが鳴った。
「そろそろかな?」
 冷蔵庫の扉を開く。
 中にあったのは銀トレイの上に乗せられた、手のひら大のチョコレートであった。
「ん、いい感じに固まっていますな」
 ハートの枠に嵌められたチョコレート。
 それは数時間前、型に流し込んだ私特製のオリジナルチョコレートであった。
 一見シンプルに見えて、中は苺チョコとミルクチョコのミルフィーユ仕立てだったりする。
 味の方は試作品で確認済み。
「お。なにそれ、優輝。美味そうじゃん。もしかして、自分で食べる用?」
「ううん。これはプレゼント用。剣太郎くんにね」
「ああ、剣太郎か。彼にはちゃんとしたのをあげないとなー」
「やべっ。材料のほとんどを兵器に使っちまったよ」
「今からでも買い出しに行きましょうか?」
 彼の名前が出たことで、若干理性を取り戻すクラスメイト達。
 さすがは剣太郎君。我がクラスのアイドルである。