バレンタインデー。
 いつ、誰によって伝えられたかは定かではないが、一応私たちのクラスにもその風習はあった。
 この日、女の子たちは想いを込めたチョコレートを男の子たちに贈る。
 基本私達のバレンタインデーも、そこは変わらない。
 ただ一つ違いがあるとすれば……。
「諸君! いよいよ明日はバレンタインデーである」
 と、教壇の上に一人の少女が立った。
「すなわち決戦の時。我らが一年分の怒りを、このチョコレートに込めるのだ!」
 ツインテールが愛らしい、女子生徒達のリーダー格、高川直子ちゃんである。
「そしてこの正義のチョコレートをもって、忌まわしき男どもに誅罰を下すのだ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
 少女たちの怒号が調理室を揺らす。
 まるでどこぞの軍事結社の決起集会であった。
 これから戦争でも機動チェスでも始まらんかの勢いであるが、さもありなん。これより始まるのは我らがクラスにおける一大決戦である。
 バレンタインデー。
 それは女子と男子の決戦の日。
 女の子達は想いを込めたチョコレートを男の子達に贈る。しかし込められた想いが恋心であるとは限らない。
 怒りや憎悪だって立派な想いだろう。
 彼女たちは日ごろの恨みつらみをチョコレートに込めて、男子たちにぶつける(物理)のだ。

 何故そんなことになってしまったのか、と問われるとこれがわからない。うちのクラスはそんな感じだから、としか言いようがない。
 以前から私たちのクラスでは、男女の仲が異様に悪かった。
 罵声の応酬は当たり前。暴力沙汰も日常茶飯事。とにかくウマが合わないらしい。
 両陣営とも、我らがジェンダーこそが正義であると主張し、日々不毛な争いを繰り広げていた。
 んで、そのピークを迎えるのが、大体このバレンタインデーなのである。