「あー、こちらA班、湯銭の準備できました、どうぞ!」
「B班、ボウルにチョコレートを投入! 温度のチェックを怠るな!」
ステンレス製のシステムキッチンが並ぶ室内に、少女たちの声が響き渡る。
「チョコの完全融解を確認! 湯銭の温度は45度!」
「ゴムべらを持て! ゆっくり混ぜるんだぞ!」
ここは剣皇領、儀吏亜学園別塔一階、調理室。
時刻はすでに午後6時。
本来ならば生徒達も帰宅するこの時間、しかし調理室はこの日一番の熱気に包まれていた。
「今だ! ゴムべら、フルドライブ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「だから、ゆっくりでいいんだって!」
室内にいるのはエプロンを纏った十数人の少女たちであった。
彼女達の手にはボウルやお玉が握られている。
「みんな気合入っているなあ」
そんな彼女たちを、壁際で見守りながら私。
「おーい、優輝。チョコレートにお酒って入れてもいいんだよな?」
「いいけど、入れ過ぎには注意してね? 匂いだけで酔っちゃう人もいるから」
「酔ったところをフクロにする作戦だから問題ない。しかし入れるなら麦酒とブドウ酒どっちかねえ」
時折アドバイスを求めに来る少女たち。
彼女達は儀吏亜学園1-Aの女子生徒達。すなわち私、風凪優輝のクラスメイト達である。
この日、彼女たちは授業をボイコットし、お菓子作りに精を出していた。
普段料理をしない彼女たちが、何故この日に限ってお菓子作りをしているのか。
言うまでもない。明日は2月の14日。すなわちバレンタインデーである。
彼女達は手作りのチョコレートを男の子たちにプレゼントするため、お菓子作りに励んでいるのだ。
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