エピローグ ジ・ワード業

 結論から言うと、ジ・ワードGOの運営は潰れた。
 しかし、ロケランと軍用ヘリが使われることはなかった。

「どういうことだ……?」
 郊外にある古びたビル。その敷地の手前で、黒髪の青年は呟いた。
「一体何がどうなって……」
 薄暗い雲の下、険しい顔で青年。
 時刻は午後5時過ぎ。やや冷えた春風が、時折周囲の樹木を揺らす。
「大変なことになりましたねえ、先生。まさかこんな形で、かの一大ソシャゲの幕が下りることになるなんて」
 そう言ったのは、傍らに立っていた白マントの少女であった。
「まあ、先生が直接手を下さずに済んで、よかったのかもしれませんが……」
 彼女の視線の先にある、敷地の門には「オーマコーポレーション」と書かれた看板が打ちつけられていた。
「しかし、驚きですよ。あれだけ世界中の人々を熱狂させたゲームが、こんな小さなビルで作られていたなんて。それも社員はたった10人という話ですよ。よく、それだけの社員で、あれだけのゲームを運営できましたね」
「そこは外注を上手く使ったんだろう。カタナ曰く、イラストや素材を外注にすれば、できなくもないというし」
 と、肩をすくめながら、黒髪の青年。
「まあ、相当な苦労があったことには違いないだろうけど……、今問題となっているのはそこじゃないな」
 そう言う彼の横を、藍色のスーツを着た男たちが、数人通り過ぎていった。彼らは敷地の門を潜り、そのままビル内へと入っていく。
「今入っていったのは、インターポールの実務部隊ですね。ゼニザキくんのお友達でしょうか。彼らが本格的に捜査を始めたとなると、しばらくビルへの立ち入りは難しそうですね」
 旧世界大陸の過疎地にある古びたビル。黒髪の青年たちが、その敷地の入り口にたどり着いてから、すでに30時間が経過しようとしていた。
 しかし、彼らは未だビル内に立ち入れずにいた。彼らが到着した時点で、ビルの敷地は地元警察とインターポールの実務部隊によって、封鎖されていたからである。
「それにしても、本当どうしてこんなことに……」
 と、あちこちが罅割れた灰色のビルを見上げながら、白マントの少女。
「まさかジ・ワード業のスタッフが全員亡くなられていただなんて……」
 その入り口から、担架に乗せられた十人分の遺体が運び出されたのは、昨日の夕方のことであった。