「というわけで、ただ今帰りました先生―――!」
そんな少女の声が、アジトの敷地に響き渡ったのは、日が暮れてからのことであった。
「頼まれた通り、依頼人との交渉を済ませてきましたよ。ただの害虫駆除だったんですけどねえ。有り難いことに、依頼料を弾んでいただいて」
声を弾ませて、リビングの扉を開く白マントの少女。黒髪の青年の助手、グレイナインであった。
「でも、助かりました。おかげで、夏イベントでマスタ(水着)をゲットするための資金が……って、なんじゃこりゃあ!?」
リビングの惨状を見て、目を丸くする少女。床には瓦礫が散乱し、壁は弾痕まみれ。家財道具一式は全て原型をとどめておらず、部屋は彼女が外出する前の面影を、全く残していなかった。
「ああ、お帰り、グレイナイン。面倒事を押し付けてすまなかったね。でも、やっぱり交渉ごとは君の方がうまくいくな。何故だか僕だと、依頼人に舐められるケースが多いし」
と、部屋の中央で腰をかがめながら黒髪の青年。彼女をねぎらいつつも、両手の箒と塵取りで、床の瓦礫を掻き集めていく。
「いやいや。そんなことより、何事ですかこの惨状は。テロ? それとも殺し屋でしょうか? 最近やたら多い脅迫状と何か関係が?」
「いや、こっちも害虫駆除だよ。逃げられたけど。まったく煩わしい虫ほどしぶとく、逃げ足が速い。何故だろうね」
「害虫駆除にマシンガンでも使ったのですか? 時々先生は、アグレッシブ度とデンジャラス度が増しますね……」
「一刻も早く始末したいところだけど、今は他に優先するべきものがある。片付けが済み次第、旧世界大陸へ向かおう。すでに装甲クルーザーのチケットは取ってあるから」
「もしかして新しい仕事ですか? 珍しいですね。先生が仕事を片付けて早々、次の仕事に取り掛かるなんて」
「急用でね。アングラマーケットでロケランと軍用ヘリの手配も済んだ。あの邪悪な運営には、なんとしても、この世から消えてもらう必要がある。それも、来月までに、だ」
「はあ。よくわかりませんが、わかりました。そういうことなら自分もお伴します! 来月までに片付くのなら、自分もラブラブイベントと夏イベントに集中できますし!」
目を輝かせながら白マントの少女。
しかし、そのイベントの開催が、まさに目の前の青年によって脅かされようとしていることを、この時の少女は知る由もなかった。
DGワード外伝
ジ・ワードGO おわり
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