「きれいごとを言わないでよ!」

 激しい剣幕で彼女は叫んだ。




「そもそも“私”は人間じゃない!昔の自分だって思い出せない!どこまでが自分の自我かだってわからない!」
 朱色の空の下に、彼女の声が響き渡る。
「そんな私が先生のそばを離れて何をしろっていうの!?人間の癖に人形の何がわかるっていうんだよ!」
 初めてみる彼女の剣幕に圧倒されながら、それでも俺は奇妙な感動を覚えていた。

 おそらくこれが彼女の本心。
 あの“先生”にだって見せなかった心の底。

 思い起こせば以前から、彼女は決定的なところで自分と人間の間に線引きをしていた。

『REIDOLLなんて所詮は人形だよ。人形を本気で好きになるなんて気持ち悪いことだよ、ゼニザキくん』

「………っ!」
 でも、だからなんだというのか。
 それでも俺は惹かれてしまったのだ。
 目の前の彼女の行く末を見届けたいと思ったのだ。

 昨日あの男から聞かされた言葉を思い出す。

『彼女自身、もう自分がなりたいものは見えている。ならばぼくの存在は彼女にとって足かせにしかならない。今彼女に必要なのは師匠じゃない。自分と共に走ってくれるパートナーなのさ』

 そうだ。
 彼女が旅立つために必要なものがあるのなら。
 俺にできることがあるのなら………!