どのような理屈でこの男が.目の前にいるのかはわからない。無論それなりの理屈はあるのだろうが、不思議とそこに疑問は持たなかった。
 むしろストンと納得したほどだ。
 ナイツ001、クロバード=ルル=クロックス。ナイツたちの戦いの裏で暗躍していた謎の男。
 緻密な計略と効率的な立ち回りで強敵達を仕留めていった彼のやり口。それは俺が心の底で思い描いていた、理想的な勝ち上がり方そのものだったからだ。
 ゆえに、関心があったのは別のところ。つまり……、

「なんで、カタナを殺してくれたんですかね。あなたは」

 思い出したのは暁の戦場。2人の日、目の前の男がやらかしてくれた殺人事件であった。
「なぜそんなことを聞く?それは今重要なことなのか」
 それに対し、どうでもいいように返すクロバード。
「なん、ですって?」
「俺とお前は敵同士。そしてカタナ=シラバノはお前のパートナーだ。ならば戦いを有利に進めるべく、俺が彼女を始末するのは当然のことだと思うが」
 それこそ当前のように言うクロバード。しかしそれで済まさせるわけにはいかない。
「はあ?なんです、それ。ぼくとあなたは同一人物でしょう?だったらむやみに争う必要はないはずだ。生き残ったナイツは二人で、両方がぼく。ならばぼくは黄金の夜にたどりついているも同然だ。あとはあなたが速やかに消えてくれれば、話がすむはずなんですけどねえ」
「それこそ、はあ?だな。生き残ったナイツが両方とも俺?そんなことはありえない。この世に同じ人間は二人といない。いるとしたら、どちらかが紛い物ということだ。そして、より優れた者の方こそ、本物であるのが道理」
 と、ナイフ片手に前傾姿勢をとる彼。
 曲線で構成された漆黒のナイフ。それは紛れもなく黒之葛家の家宝の一つ、闇夜の鍵。
「黄金の夜に辿り着くのは本物たる俺一人でいい。紛い物のクロラット=ジオ=クロックスはここで………、死ね」
 次の瞬間、弾けるように吶喊してくる黒マント。
 ああ。わかっているさ。こいつは俺を殺したかったのだろう。それも、おそらくずっと以前から。思えば暗黒シティに来て以来常に感じていた何者かの殺気。それは目の前の男のそれと完全に一致する。
 どのような因果で自分と戦わねばならぬのかはわからぬまま。それでも今はこの状況を受け入れよう。俺とて今更話し合いで済まそうなどという気はないのだ。
 200メートルの距離を5秒で詰め、目の前に迫るクロバード。故に、
「自惚れんなよ、くそ餓鬼。ぼくの分際でぼくを殺そうんなんて片腹痛い」
これが最後。
 引き抜いた刀でナイフを受ける。
 弾ける火花。響き渡る金属音。
 それはこの暗黒シティ頂上決戦の始まりにしては、いささか静かなものだったのかもしれない。


 


 それでも火ぶたは切って落とされた。
 およそ一年近く続いてきたナイツたちの戦い。のちにいう暗黒シティオールスターデスマッチ、黄金の夜事件。 
「ふんぬっっっ!」
 その最後の戦いは、今確かに始まったのだ。



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