それからまた数京年、数垓年の月日が流れました。
 いつからか人々の間にはある噂が流れていました
 この世界にはまだ誰も見たこともない大秘宝、黄金の夜なるものがあるらしい、と。
 それを手にしたものは誰も味わったことのない素晴らしい感動を得られるのだとか。
 初めは馬鹿馬鹿しいと嘲笑っていた人々も、いつからかその噂から耳を背けることができなくなりました

 無論その存在を疑う者もいます。
 否、すべてを知りうる彼らにとって、そんなものが存在しないことはわかりきっているのです。
 しかし、あるものをあると証明することが容易なのに対し、ないものをないと証明することはできません。
 万能力ですら把握できない至高の宝。
 そんなものはないと自分に言い聞かせながらも、もしそれが存在したらどんな素晴らしいものなのだろうかと、人々は夢想を重ねていきました。
 なまじ願いを持たない人々だったからこそ、持ってしまったときの情念は凄まじいものだったのです。

 そうして争いが起きました。
 黄金の夜をすでに手に入れたものがいるらしい。誰かが隠しているのではないかと。
 子供でも嘘とわかる噂に騙され、多くの人間が争うようになりました。
 万能力を持つ者たちの戦いは、世界を破壊し、時空を歪め、そして大勢の人間が死に至りました。
 悠久の平和などどこへやら。世界は混沌に包まれ、多くの戦いと犠牲ののち、やがてそれは一つの都市に集約されていきました。


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