それからまた数兆年、数京年がたちました。
 少女の胸にある漠然とした思いは、雪のように降り積もり、やがて一つの結晶となりました。

「そうだ。私は夢を、見たい」

 それはある種の奇跡でした。何も願わないはずの人間が、初めて何かを願ったのです。
 少女は夢を見ることを夢見たのでした。

 そこからの彼女の行動は早かったです。

 人々が夢を見られないのはこの世界が完全だから。
 この世界が完全なのは、誰もが何も願わないから。

 ならば人々がなにかを願うようになれば、この世界の完全性は崩壊し、いずれは人々も、自分も夢を見られるようになるかもしれない。

 しかしすべてを手に入れた人類に欲しいものなどありません。この世界に存在するすべてのものは人類の管理下にあるのですから。
 ならばこの世界に存在しない宝があればいい。どんなに望んでも絶対に手に入らない宝を用意すればいい。

 今この世界に存在せず、いずれこの世界に生まれ出る宝。
 ドリムゴード。
 少女はその宝をそう名付けました。

 もちろん意味などありません。その名が意味を持つのは遙か未来においてなのですから。


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