はるか昔のお話です。 そこには今とは全く異なる文明がありました。 その世界の住人はあらゆるものを制御する力を持っており、大地も海も時間も天体も、全てが彼らの管理下にありました。 無限の力と悠久の時間を持つ彼らに手に入らないものはありませんでした。 ただ、一つのものを除いては……。 それに気付いたのは、一人の少女でした。 彼女もまたその世界に住む人々と同様、あらゆるものを制御する力を持っていましたが……、しかし漠然と胸に満たされないものがあるとも感じていました。 『何か、物足りない気がするのはなぜだろう』 それがなんなのかは少女にもわかりません。 しかし数万年、数億年経つうちに気付いたのです。 『要するにこの世界は………………、つまらないのだ』 少女の名はキィ=ヒストウォーリーといいました。 何故つまらないのか。それに気づくのにもまた長い時間がかかりました。 少女は膨大な知識を漁り、あらゆる情報を検索しました。 そして数億年、数兆年の検索の末、ようやく分かったのです。 この世界には“夢”がないのだと。 夢、欲望、野望。 言い方は人それぞれでしょうが、ともかくそれはこの世界に住む人々が大昔に失ってしまった概念でした。 あらゆるものが手に入るということは、何かを願う必要がなくなります。何も願わないということは、何かを変える必要もなくなります。 あらゆるものがある代わりに何も変わらない世界。それがその世界の正体だったのです。 もっともそれに気付いたところで、何をすればいいのかなどわかりません。 そもそも全てを手に入れた彼らは、何もする必要などなかったのですから。 ただ漠然としたものを胸に抱えながら、また長い年月が過ぎました。 それでも、その時すでに始まっていたのかもしれません。 その完全な世界の崩壊は。 そして今この街につながる、黄金の夜にまつわる物語のプロローグは………。 |
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