光の中、塵となって消えてゆくクロラットの体。 至近距離で爆発をくらい、俺【クロバード】も衝撃波で吹き飛ばされる。 暴風の中、宙を舞う俺の体。 スローモーションで流れていくドームの景色の中に、気が付けばナイツ達の姿はすでになかった。 力を使い果たしたからか、あるいは戦いに決着がついたからか、彼らは彼らのいるべき場所に帰っていったらしい。 「皆さん……、お疲れ様でした」 散乱する秘宝の鍵に礼を言う。 この戦いに意味があったのか。結局それはわからぬまま。それでも、少しでも彼らの心が満たされたのならば、幸いだろう。 ………と、 『まったく大した愚か者だな、君は』 どこからか、声が聞こえた気がした。 『これだけの資質を持ちながら、あくまで半端な自分を貫くというのか……。もったいない。君と俺が一つになれば、黒之葛史上最悪の魔王にだってなれただろうに』 気が付けば目の前に黒い影。しかしその存在感は先ほどよりはるかに弱々しく希薄である。 『しかし、これも必然なのかもしれないな。その半端なあり方こそが、“怪盗騎士クロウ”が最後まで守りたかったものそのものなのだから……』 どこか寂しげな笑い。 しかし、 『まあいい。俺としては納得がいった。この戦いの勝者は君だ、クロラット君。そして君こそがこのSIDE:Cにおける黄金の夜争奪戦の最終勝利者だ』 吹っ切れたように黒い影。 ……しかしこいつが満たされても俺の知ったことではないのである。 つーか、俺に魔王の資質があるだとか、何を見て判断したのやら。寝言は寝て抜かせ。 『そうかな?果てなき欲望。大衆を惑わすカリスマ。そして胸に秘めた底知れぬ闇……。君には紛れもなく魔王としての資質があるよ。あとは、君さえその気になれば……』 再び暗い笑いを浮かべて黒い影。 ………やはりこいつに気を許してはいけない。 これの太源がなんであれ、この影自身は紛れもなく人に災いをもたらすものだ。 『今回は先送りしたが、いずれ君自身の意思で闇に足を踏み入れる日が来る。その日は必ず来る。その日が来ることを……、俺は黒之葛の深淵で待っているよ』 そうして声は遠ざかり、 『それでは達者でね、クロラット君。いや、偉大なるナイツゲームの覇者、クロラット・オブ・ドリムゴード……』 そうして影の気配は完全に消え去った。 消滅したのか、あるいは新たな宿主を探しに行ったのか。 いずれにせよ俺と奴自身の戦いはこれで完全に終了したのだろう。 「それにしても……」 最後まで妄言甚だしい奴だった。 なにが魔王の資質だか。どう考えても俺はそんなものに向いてはいないし。 それに……、 「クロくん……!」 と、気が付けばこちらに向かって走ってくる白コートの彼女。 見れば顔面真っ青である。解凍直後にあんな動き回って大丈夫なのかしら、彼女は。 「………と、いうか」 やはり俺が魔王とかありえない。 そんな妄言を抜かした日には、彼女から爆笑をくらうか、あるいはスパナで撲殺だろう。 無論どちらもごめんである。 一人では間違えることがあっても、二人以上なら支えあってやっていける。世の中とは案外うまくできているモノなのかもしれない。 「それに……」 胸の傷を見る。そこには突き刺さった闇夜の鍵。 今更ながら全身に痛みが走る。 「どうにも、これ以上持ちそうもないしなあ」 いくらあの野郎をぶっ飛ばすためとはいえ、さすがに今回は無茶が過ぎた。 まあここまでやらないと、あの影を罠に追いやることはできなかったのだけれど……。 「まあ、いっか」 それでも自分としては悔いはない。 やるだけのことはやりきった。倒すべき敵も倒した。 生き残るだけなら別の結末もあったのかもしれないが、これはこれでひとつのゴールだろう。 胸にはある種の達成感。 それでも………、唯一悔いが残っているとしたら……、 「クロくん!クロくん!」 悲痛ともいえるカタナの表情。 おかしいなあ。何故彼女はあんなに悲しそうな顔をしているのだろう。 ようやく黄金の夜に辿り着いたのだから、もう少し喜べばいいのに。 なにが、彼女をそんなに悲しませるのか。 こんなはずではなかった。まだちょこっとだけだけ足りない気がする。 でもいったいどうすればいいのだろう。 薄れる意識の中、その解答も得られぬまま、とうとう俺の肉体は地面に叩き付けられ、その意識は途絶えるのであった |
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