気が付けば小雨が降りだしていた。雨水が魔剣と拳銃を濡らす。
「じゃあ、行くぞ黒鳳。久々の喧嘩だ。死んでも恨むなよ」
仄かに輝くリボルバーの銃口。
「先生………」
「狂之助様………」
湿った生暖かい風が広場を吹き抜ける。
その時だった。
突如頭上の雲から放たれた雷が、教会裏の大木に落ちたのだ。
凄まじい轟音と衝撃が街そのものを震わせる。
「――――――!」
それと同時に動いたのは先生だった。
彼は目の前に一歩に踏み出しながら、魔剣を大きく振りかぶる。
「黒之葛奥義―――」
凝縮する黒きREI.。彼はありったけの力を魔剣に注ぎ、
「冥王666殺!」
フリスビーのように、お兄さんにむかってそれを投げつけた。
「――――――!!」
高速回転しながらお兄さんに迫る魔剣。不吉なREIを纏ったそれは、掠っただけで標的を惨殺するのだろう。
しかし――――――、
「いや、これはねーだろ」
お兄さんは軽く上に飛ぶだけでそれを躱した。
「いかに強力あっても、こんな単調な一撃が俺に通用するわけなかろうに」
空振りした魔剣を背に、空中で体を捻りながらお兄さん。
「んじゃ、とどめだ黒鳳。せめてもの手向けに、華々しい一撃をくれてやるよ」
リボルバーの銃口を先生に向けるお兄さん。
「狂弾―――」
そうして、彼は引き金に指をかけ――――――、その一瞬、微かに躊躇った。
『何か、いいようにのせられているような……?』
黒之葛長男が誇る直感力。それは時に未来予知に近い警報を本人にもたらす。
視界の端で揺れる死神の旗。彼はそれに気づいたが、
(ま、いっか。面白そうだ)
悲しいかな、警戒よりも興味が勝ってしまった。
「―――黒ノ葛!」 引き金を引く金髪の青年。
爆音と共に銃口から飛び出す金色の弾丸。
ギラギラ輝く黄金の粒子を纏った弾丸。それはコンマ一秒後、先生の胸に突き刺さった。
「先生――――――!」
吹き抜ける黄金の風と、響き渡る衝撃音。
空振りした魔剣が後ろの大木に突き刺ったのと同時に、教会の屋根へと着地するお兄さん。
「ふうっと」
これにて戦いは決着がついた。強大なREIを纏った弾丸は、次の瞬間先生の胸に風穴があけるのだろう。
やると決めたら容赦がない、鉄の意思を持つお兄さんの完全勝利。
と思ったが――――――、直後お兄さんは気付く。
「衝撃音………?」。
先生の胸を凝視するお兄さん。
遅れて自分たちも気付いた。
弾丸が直撃したのと同時に発した、固いもの同士がぶつかったような衝撃音。
「あれは………!」
見れば先生は健在であった。彼は微かに前かがみになりながらも、五体満足でその場に立っている。
そして黄金の弾丸はというと、高速で横回転しながらも先生の胸の手前で留まっていた。
「これは………?」
弾丸のREIと横回転が激しいスパークを巻き起こす。何かが先生から弾丸を遮っていた。しかしわからない。あれだけ不吉なREIを纏った弾丸を、どんな装甲があれば止められるというのか
弾丸の巻き起こしたスパークによって破かれていく先生の胸ポケット。
「あれは!」
そこから現れたのは………、一枚のカードであった。
「わかっているんですよ。あんたのいやらしい戦い方は」
胸のカードに手をやり先生。
「相手の隙をついてのカウンター攻撃。敵の戦意をへし折り、かつ自分の実力を見せつける、騎士にあるまじき下劣な戦い方。しかし、怪物じみた動体視力と反射神経を持つあんたのそれを攻略することは確かに困難」
先生が触れたと同時に輝きだす一枚のカード。それは端っこにスペードのAと書かれた、トランプのような絵札であった。
本物のトランプと違うところがあるとすれば、それは中央に野暮ったい衣装を着た男のイラストが描かれていることと、下半分に古代文字のテキストが書かれていることくらいか。
「ならばどうすればいいのか………。簡単だ。こちらからあえて隙をつくりだすことで、あなたのカウンターをコントロールすればいい。攻撃範囲を絞り込むことで、そこに特大のトラップを用意する」
黄金の弾丸すら遮るカード。そのカードのことを、自分は知っていた。
「あれは、失われた栄光の都の……」
半年前の冒険が脳裏によみがえる。
半年前、先生と自分はとある大陸の古代遺跡を訪れた。
そこで自分たちが見つけたのは、古代人が残した強力な召喚呪符。それはかつてその地にすむ民たちが、皇位を競うために用意した決戦兵器だという。
本来はならば53枚あるカードの中には、それぞれ強力な古代戦士の魂が封印されているのだとか。
「Gアルカード………!」
あの時守り人に譲ってもらった一枚が、先生を弾丸から守ってくれたのか。
カードに遮られ激しい閃光を放つ弾丸。しかしその閃光は次第につカードに吸い込まれていくように見えた。
「ついでにあんたのエネルギーも利用させてもらう。これは俺一人の力では起動できなくてね。だがあんたと俺のREIを衝突させれば………!」
やがてエネルギーを失ったのか、ポトリと地面に落ちる弾丸。
代わりにカードの光は膨張していき……、
「Gアルカードアクティブ!スペードのA、忍者マスター!」
直後一気に膨れ上がった光が、広場を黄金色に染め上げた。
巻き起こった黄金の竜巻が、周囲の瓦礫を吹き飛ばす。
「………………っ!」
一瞬自分も飛ばされそうになったが、なんとか地面にへばりついてこらえた。隣にいる輝目羅さんも同様だった。二人で手をつないで突風を凌ぐ。
そうしてこらえること数秒、やがて光も風もカードへと収束していった。
「これは………」
光が収まったときには、先生の姿が変わっていた。 |