「!?」
 驚いて声のした方に振り向く。声は正面の教会からであった。
 見上げればいつの間にやら三階の屋根に、一人の男性が立っていた。
 金髪で黒コートを羽織った先生よりやや年上に見える青年。彼はコートの裾をマントのようにはためかせ、こちらを見下ろしている。
「………………」
 当然先生も気付いている。黙って金髪の彼を見上げている先生。
 しかし一見落ち着いているようでいて、やはりその表情には隠しても隠してきれない苛立ちがあった。
「やあ、久しぶりだな、黒鳳。何年ぶりだ?また生きて会えるとは思わなかったぞ」
 と、そんな先生の表情に気付いているのかいないのか、馴れ馴れしく話しかける金髪の彼。
 黒鳳、とは先生のことだろう。旅先で何度かその名前を使っていた覚えがある。
「とはいっても随分容姿が変わったな。何その顔。誰かのパクリ?まーた面倒くさそうな人生を送ってんだなー、おまえは」
 と、薄ら笑いを浮かべながら金髪の彼。
 そんな彼に対し、
「そちらは相変わらずですね。本当変わらず癇に障る軽口。つーかどの口がそんなセリフを抜かしますかね。その面倒事の元凶が」
 と、こちらも一応は笑みを浮かべながら先生。
「なにも変わらない。相変わらずのくそったれですね、兄上」
 しかしその口調には確かな殺意が込められていた。

「なるほど………」
 対面する彼らを前にして、疑問が一つ解ける。
「お兄さん、ですか」
 すなわち今教会の屋根に立っている彼こそが、今回先生を呼び出した張本人らしい。そしておそらくは先生が不機嫌だった原因。

 先生の実の兄にして、その関係は(見ていて面白いという意味で)良好のようだった。