エピローグ
ホウホウホウと梟の鳴き声。
夜の執務室にて、俺は書類に判を押す。
別に今日中に済まさなければならないものというわけでもないのだが、ちょっと昼間の興奮が冷めきらず、しばらくは眠れそうになかった。
思い出すのは昼間のこと。ある氷の剣士との戦いの記憶。
悪いがそれほど彼女のことが印象的だったわけではない。思い出したのは別のこと。あの一瞬、剣山に取り囲まれた俺は、何故勝負をあきらめることをしなかったのか。
「………………」
いや、わかっている。思い出したのだ。彼女の横顔と、託された使命を。
椅子から立ち上がりクローゼットを開く。そこにあったのは白いフードつきのマント。
それは大崩落事件の終盤において、彼女から託されたものであった。
「ユニ夫君。君にこれを託します」
「これは、あなたのマント?俺にどうしろと?」
「これをいつか誰かに渡してください。それが、私からあなたへの最後の命令です」
「渡すって誰に?というかその命令に何の意味が?」
「渡すのはだれでもいいです。あなたがこの人だ、と思う人に渡してください。それではさよならユニックスくん。いつまでもみんなと仲良しで……」
「隊長!隊長!おい、キリア!」
マントを握りしめる。本当にわけのわからない女だった。最後の最後まで俺を振り回して……。
「でもま、おかげで命拾いしましたよ」
死んだあとまで俺を守ってくれるあたり、本当に女神だったのかもしれない。彼女の最後の命令である以上、それを果たさぬまま死ぬわけにはいかなかったのだ。
いつか約束を果たすため。未来で何かを成し遂げるため。
「未来……か」
未来で何かをなすために俺は生きているのだろうか?それこそが俺が踏みつけてきた者達に報いる唯一の方法だと?
「わかんないな、そんなこと」
マントをしまい、デスクのライトを消す。今日の仕事はこれくらいでいいだろう。
明日は明日で忙しくなる。何せ彼女の歓迎会を開かなければいけない。はたしてその場で彼女とあの野郎どもを和解させることができるだろうか。
「久しぶりにケーキでも焼いてみるかね」
暗闇の執務室を出て、エレベーターへと向かう。
それではさよなら、また明日。
明日は明日でやるべきことをやりましょう。
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