土煙漂う大通り。
 自らの造り上げた路上のクレーターを背に、怪物はその場から去っていった。
「いったかな?」
 どうやら獲物を仕留めたと勘違いしたらしい。
 クレーターのすぐ横の細い路地から、怪物を見送りながら俺。
「しかし、どうして助かったのか………」
 そう、四つんばいでつぶやいた俺の下から
「どうしてもなにもないでしょ」
 そんな、女性の声が聞こえた。
「?」
 見れば俺の下には、一人の少女が仰向けで倒れていた。
「君は一体?」
「一体じゃないでしょ。人に助けてもらっておいて、そのお礼がこれかい」
 頬を膨らませながら俺を見上げる彼女。
 見ようによっては婦女暴行の真っただ中だろう。しかしいくらなんでも俺はそこまで堕ちぶれていただろうか。そう思ったところで少女の手が、俺の手首をつかんでいるのを見て理解した。
「なるほど。君が助けてくれたわけか」
 つまりあの怪物のパンチが直撃する直前、彼女が路地裏に引き込んでくれたらしい。しかしその勢いで、俺は彼女を押し倒してしまったと。
「わかったらどいてくれるかな?」
 こめかみをひくつかせながら、あくまで穏やかに彼女。案外自分の好みかもしれない。場違いにも、そんな考えが浮かんだところで、初めて彼女と目があった。
 淡い色の髪に、白いコートの少女。年齢はぼくと同じか下かだろうか。
 しかし初対面のはずの彼女はどこか見覚えがある気がして、

「……………っていうか、カタナ?」
「あれ……?クロくん?」



 自然とそんな名前が口から出でた。
「――――――――――」
 無論、俺に目の前の少女と会った覚えなどない。彼女の方もそれは同じだろう。
 なのに自分は彼女を知っているのだと、心のどこかで確信している自分がいる。
 どうやら彼女も同じのようで、目を見開いて俺を見上げる。
 そのまま俺たちは数分間、間抜けにも黙って路地裏で見つめあっていた。

 というわけで、これが俺、黒鼠九郎と、彼女、白刃野カタナとの出会いであった。
 そしておそらく、いつかどこかで約束された再会だったのだろう。


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