「………………そ」
「?」
 と、気が付けばうつむきながら肩を震わせるグレイナインちゃん。
 しかし途端、ガバっと顔を上げて、
「それでこそあなたです!マスタ!」
と 、満面の笑みを浮かべる彼女。
「それでいい!その言葉を聞きたかったんです。ああ、これでこの街に立ち寄った甲斐があったというものです!」
 まるでわがことのように、小躍りしながら彼女。
「いや、だから君は………」
 本当何者なのか。なぜわがことのように喜んでいるのか
 いや本音を言うと何となく、正体は読めてきているのだけれど。
「それではさっそく参りましょうか。お二人の決意が揺るがないうちに」
 と、右手を天に掲げて少女。
「黒之葛が秘宝、闇夜の鍵と白夜の鍵よ。我が義父、狂之助左衛門=弾=黒之葛に代わり命ず!」
 と、突如私の手からはじけ飛ぶように宙を舞う白夜の鍵。それは闇夜の鍵も同様で、二つの鍵は宙を舞いながら光を放ち、気が付くとフラフープ状の輪になった。
「汝ら魂の鎧となりて、わが恩師たちを護りたまえ!」
 と、二つの輪はそのまま降りてきて私とクロくんをそれぞれ囲う。
 すると輪っかに囲まれた私たちの体から光の粒子が溢れ出した。
「なになになに?」
 溢れ出た粒子はそのまま輪っかに吸い込まれていく。
 ああわかった。これが情報化され鍵の中に封入されているということか。正直ちょびっと怖いものがあったが、まるで春の日差しの中うたた寝をするときのような気持ちよさ。
 意識もまた情報に変換されているが故か、次第に薄れゆく景色。
 そうして視界が白色に染まる中、最後にセブンくんと目があった。
 彼はぺこりと頭を下げると、
「短い間ですがお世話になりました、カタナどの。どうかマスターと末永くお幸せに」
 穏やかな笑みでそう言った。
「え?それはどういう……」
 何故そんなことを言うのか。そんな、まるで今生の別れかのような。彼はこの後、スペシャルな方法とやらで一緒に脱出できるのではなかったのか?
 
 しかしそれを問いただすことはできなかった。視界は真っ白に染まり、ついに物音ひとつ聞こえなくなる。
 静かにゆっくりと、閉じていく私の意識。

 真白き意識の中、降り注ぐ黄金の雪。
 それは暖かく、やわらかな、きっとこの街で散っていった者達の思念であった。
 彼らが私たちの出立を祝福してくれるというのか。
 と、気が付けば私の横に絶つ黒い人影。
 彼は愉快なんだか不機嫌なんだかないつもの声で
「んじゃ、行きますか。相棒」
 そういってこちらに手を差し出す。
「うん」
 笑顔でその手を取る。もうそこに迷いはない。

 すべてが手に入ったわけではないけれど、すべてが失われたわけでもない。
 悲しいことは数多く、この先も困難が続くのだろう。
 それでも彼が隣にいる限り、私は歩みを止めることはない。
 ただ全力で、いつまでも彼とともにある。

 新たな物語は始まっている。
 わが人生はクロラット=ジオ=クロックスとともにある。

                       
ドリムゴードSIDE:C 完




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