遠くから聞こえる轟音。それから数秒遅れで来る大地の振動。
 またどこかの区域が消滅したのだろう。崩壊の足音はゆっくり、しかし確実にこちらへと近づいてくる。
「いかれるのですか、マスターK」
 多目的大型ドーム、ドリゴノス。その入場ゲートの前で、少年は俺に尋ねた。
「うん。このままつっ立っていても寒いだけだしね。雪もひどくなってきたし。雪像と化す前に用事を済ませてしまおう」





 頭と両肩に降り積もる雪。それを気に留めることなく、赤ずくめの少年は訴える。
「マスターK。やはり考え直した方がいい。敵は強い。正面から挑んで勝ち目があるとは思えない。ここはいったん出直して体勢を立て直すべきでは?」
 昨日から幾度となく繰り返されてきた問答。しかし俺の答えは変わらない。
「戦力面で劣っているのはいつものことさ。それに立て直したところで、今回よりいい条件で戦えるという保証もないしね」
 半壊したゲートを見上げつぶやく。折り重なった鉄骨はさながら十字架のようだ。
「それに時間の都合もある。ジャッジの言ったことが本当ならば、DGシステムはこの暗黒シティそのもの。ゆえに暗黒シティの崩壊はドリムゴードそのものの消滅を意味する」
 と、また遠くから爆発音。駆け抜ける轟音と熱風は、またこの都市から一つのエリアが消滅したことを意味する。
「ならばぼくが黄金の夜にたどりつくのは、これが最後のチャンスかもしれない」

 暗黒シティは崩壊を迎えつつあった。
 知る人ぞ知ることであったが、もとよりこの街は巨大な爆弾を抱えていた。
 そしてそれはナイツにおける“ある人物”が死亡したことで、“再び”スイッチが入ってしまった。
崩壊の牙は、かのDGシステムの機動怪獣など比べ物にならないほどの速さで暗黒シティを喰らいつつある。残された時間はそう多くはなかった。

「ならば自分がお供します。自分が前衛となってあなたを」
「必要ないよ、セブン。今の君では足手まといだ。君は13人の日……、バーナル=ブレイとの戦いでつけられた傷が癒えていないのだろう?」
 セブン。それが目の前の少年の名前であった。
 セブン=ドリムゴード。かの203人の日、カタナとともに保護したREIドールの少年。紆余曲折を経て彼は俺を師事し、ともに戦ってくれたわけだが、
「カタナなき今、君の腕を修理できるものはいない。ついてこられても迷惑だよ」
「……っ」
 突き放すような言葉は彼に対する気遣い、であることは否定しないが、半分は本音でもある。これより戦う相手は生半可な戦力がついてきてどうにかなる相手ではないのだ。ましてや、目の前で半端な死に方でもされたら気が滅入ってかなわない。
「わからない、マスターK。なぜあなたはそこまで黄金の夜にこだわるのか。あなたは言っていたはずだ。自分の目的はドリムゴードの破壊であると」
 ついてくることはあきらめたのか、それでも引き留めようとセブン。
「このままいけば黙っていても黄金の夜は消滅する。なのになぜこれ以上戦う必要があるのですか?」
 彼のいうことはもっともだ。俺自身黄金の夜の正体は読めてきたし、仮に手に入れたところで、そのまま暗黒シティの崩壊にまきこまれるのは明らかだ。
 我が身かわいさに危険なことは避けて回るのが俺の流儀。なのになぜあえて今、危険なところに飛び込もうとしているのか。
「なんで、かな?確かに市長が死んだ今、黄金の夜への復讐なんてどうでもいいっちゃどうでもいいんだけれど……」
 俺が黄金の夜を追っていた理由。それは俺の運命を狂わせた者たちへの嫌がらせのようなものだ。その対象となる者達がほとんど消えた今、あえて黄金の夜にこだわる必要はないはずで、

「クロくんと一緒なら……、私本当に黄金の夜にたどりつける気がするんだ」

 なのに心のどこかに、何が何でも黄金の夜にたどり着かなければならない理由がある気がする。
「……ま、そういうこともあるのかもしれないね」
きっと愚かなことをしているのだろう。いぶかしむセブンに背を向け、入場口に踏み込む。
「マスターK……!クロラット=ジオ=クロックスどの!」
 これも今までの延長線。思えば彼女と組んで以来、俺が正しい行動をとれてきたことなどなかったわけで。
「それじゃあ達者でね、セブン。お互い命があったらまた会おう」
 そうして今日まで運命を共にした友人に別れを告げる。

 俺、クロラット=ジオ=クロックスがセブンの顔を見たのは、これが生涯最後であった。



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