瞼を開くと、視界を埋め尽くしていたのは白一色の天井であった。
「ここは………」
 ステンレスと断熱材で構成された一片10メートルほどの立方体の空間。
 見覚えがある。確かシラバノ地下の巨大冷凍庫だったはずだ。
 その中央に設置されているのが直径2メートルほどの円柱状のカプセル。その真っ二つに割れた中央に私は横たわっていた。
「どうしてこんなところに?」
 特殊合金で構成されたそれは、シラバノ社製新型コールドスリープシステムだったはずだ。寝たままでもわかるのは、まあ私が開発者本人であるが故。 
 半身を起すと横に転がり落ちる何か。
「これは………?」
 手に取ったそれは秘宝の鍵の一つ、白夜の鍵であった。
 寝ていた私の胸におかれていたのだろうか。しかしなぜこれが?
「クロくんがおいていったのかな?」
 お守り代わりに、だろうか。でもこれは市長の持ち物だったはずだ。私にとってあまり縁起のいいアイテムとは思えない。
「でももしかしたら……」
 私が知らないだけで、クロくんにとっては思い入れのあるアイテムなのかもしれない。そういえばこれを手にしたときクロくんは、何とも言えない感慨深げな表情をしていたっけ。
 と、一瞬その宝玉に見知らぬ誰かの顔が映った気がした。
 メガネをかけた白髪の少年。
 思い出せないが、しかしどこかで見たような……。
「確か、頼みごとをされて……、くしゅん!」
 思い出そうとして、大きなクシャミ。
「―――ていうか、寒っ!」
 全身が震える。
 そういえばここ冷凍庫のなかだっけ。電光パネルに表示されていた室温はなんとマイナス20度!
「ていうか、服は!?」
 しかも私、服を着ていません。カプセルに横たわる私は、いわゆる一糸まとわぬなんとやら。
「どうして―――!?」
 そういえば、服着たままじゃコールドスリープはできないんだっけ。
 だれだ。こんな欠陥カプセルを作ったのは。
「私だ………」
 納期が近かったからといって手を抜いた自分を恨む。
「とにかく服!服!」
 流石の私もこの恰好で凍死とかは恥ずかしすぎる。いや、恥ずかしいというのならば、すでに取り返しのつかない何かが起こってしまった後な気がするけれど………!
「あった!私のコート」
 壁に掛けてあったコートを手に取る。
 しかし、
「凍ってるし!」
 さすがは私が設計した冷凍庫。芯まで凍ったコートはとても着れたものではない。
「どうしよう―――?」
 そんなわけで冷凍庫から飛び出て予備のコートを入手するまで5分。
 情けないったらないが、まあ氷点寸前だった私の体温が一気に平均体温を飛び越えたのが幸いといえば幸いだろう。
 さておき、
「あとで頭のどのあたりを殴ったら記憶を消せるのか勉強しておかないと」
 地下格納庫の小型機動兵器に乗りこみ、シートベルトを装着。久しぶりに握った操縦桿を一気に押し倒す。
「…………っ!」
 急激にかかるG。矢のように格納庫から飛び出す機動兵器。
「中央地区から生体反応!多目的ドームドリゴノス!」
 レーダーに映った小さな光点。おそらく彼はそこにいる。
 しかし、その西に見える巨大な熱源は、明らかにこの暗黒シティに何かが起こりつつあることを意味していた。
「それでも……」
 恐れるには足らない。こういう時こそ彼の手足となり、手助けするのが私の役目なのだから。
「待っててね、クロくん」
 アフターバーナーに点火する。

 そうして解凍から10分。いまだ振るえる手足を押さえつつ、私は多目的ドームドリゴノスへと向かうのであった。


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