なぜ、カタナが生きているのか。こいつにはわからないことだろう。
 実のところ俺にもわからない。
 氷漬けにしてシラバノ地下冷凍庫に安置されているはずの彼女が、何故ここにいるのか。

 それでも、生きていることだけは知っていた。
 気づいたのは数十秒前のこと。
 砕け散ったドームの天井。そこに点滅していた鬱陶しい照明。
 チカチカチッカ。チカチカチッカ。
 その点滅のリズムが、ある規則性に基づき点滅していることに気付いた時、俺は勝利を確信した。

チッカチッカチカ チカチッカチッカチカ チッカチカ チカチッカ チッカチカチッカチッカチッカ チカチッカ チッカチッカチッカチカ チカチカ チカチカチッカ チッカチッカ チカチカチッカ チカチッカ チッカチッカチッカチカチッカ チカチカ チカチカチッカチカチッカ

 そういえば彼女は言っていた。最近は暗号で日記をつけるのがマイブームだと。
 その中でも最近彼女がはまっているという、ツートンで刻まれる原始的な暗号といえば……、
「モールス信号……!」
 ドームの照明システムを乗っ取るくらい、魔道コンピューターを扱う彼女にとってはお手の物。チッカをツーで、チカをトンで変換すると、

 リッタイエイゾウヨウイズミ

 そのメッセージが、俺に最大の勝機をもたらす。

「どうして、貴様が……」
 彼女の姿を見て動揺するクロバード。俺は先ほど動揺を済ませており、若干冷静。その差が、勝負を分かつ。
 すでに俺の手に握られていた真夜の鍵。それにありったけの魂を込める。
「もう一度だけ俺に力を貸してくれ、ラット」
 俺の願いに呼応してか、宝玉から噴き出す白銀の炎。

 曰く、黒之葛家最終奥義。
 清濁あわせ持つ者のみが扱えるという伝説の宝剣。
 善は奴が、悪は俺が受けもち、今こそ引き抜かれる黒之葛家の切り札。
「顕現しろ、真夜の剣!」
 白銀の炎を纏い現れたのは白黒二色で彩られた伝説の宝剣。
 それこそ黒之葛の最終秘宝、名を真夜の剣という。

「クロラット……!」
 振り向きながらクロバード。だが遅い。大技を放った直後の奴の反応速度は通常時の6割減。そしてこの剣を引き抜いた俺の現界速度は10割り増し。 
 クロバードまで、残り―――、
「0メートル!」
 振り向きざまの奴の胸に、容赦なく剣を突き立てる!
「がはっ」
 血反吐ぶちまけクロバード。
 黒き影に取りつかれ俺への憎しみを増幅された男。
 こいつだけが悪いわけではないが、しかし責任がないわけでもない。
 ゆえに、けじめはつけさせる。
 突き立てた剣にそのまま己の魂を流し込み。
「黒歴史、滅するべし!」
 俺の魂が白銀の炎に引火する。一気に膨れ上がった白銀の炎が、クロバードを内部から焼き尽くす。
「があああああああああっ!」
 炎上するクロバード。熱風がドーム内に吹き荒れる。

 こうしてクロバードは倒した。
 生き残ったナイツは俺一人。
 過ぎてみればあっけなく、自分との戦いはこれにて終了。全生命力を使い果たした俺は流石にもう動けない。
 しかし、

『ふふふ……』

 どこからか、そんな不吉な笑い声がした。


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