タイミングは同時だった。

「がはっ」
 口から血を吐く白髪の少年。零れ落ちた大量の血液が白銀の床を赤く染めた。
「………………………」
 中破した魔道コンピューターの前で向かい合う二人の少年。
 黒髪の少年はそんな彼を見下していたが、
「ぐっ」
 間もなくして彼の口からも血が零れ落ちる。
「貴様…」
 白髪の少年の胸には黒いナイフが。
 黒髪の少年の胸には白いナイフが。
 互いの突き出した二本のナイフが、交差して互いの胸を貫いていた。
「ラット!クロバード!」
 背後で声を上げるジャッジ市長。しかし彼は地べたに座り込んだまま、駆け寄ることができなかった。見れば彼の両足はずたずたに切り裂かれ、血まみれになっていた。
「うまいな……」
 さらに離れたところでうつぶせになりながら金髪の少年。見れば彼も満身創痍。
「白夜の鍵の退魔能力が奴の拡散を封じている。これなら……」
 しかしそれも無理もなきこと。なにせ自身の血の原点である存在を、ほぼ独力でここまで追い詰めたのだ。実家の人間達がこれを見たら卒倒していたかもしれない。
「くそっ。よりにもよって、お前なんかに……」
 白髪の少年を睨みつけながら黒髪の少年。
 それは……、紛れもなくクロバード自身による憎悪の声。
「ぼくの、勝ちですね。怪盗魔王さん。あなたの波動は強力過ぎて、外側かではら追い払うことはできない」
 その視線を正面から受けながら、白髪の少年はナイフを握る手に力を込める。
「ゆえに追い出すなら内側から!僕の全生命力を持ってあなたをクロくんの体から追い払う!」
 途端、ラットの全身から噴き出す白銀色の炎。
「まさか!その炎は……」
 それを見て息をのむジャッジ市長。

 この日、ラットが初めて見せた発火能力。それは彼固有の能力“白銀の炎”であった。
 彼の清らかな魂を具現化したかのような聖なる炎。それはあらゆる邪悪を浄化するという強力な力を持つ反面、彼の生命エネルギーを著しく消耗するという欠陥があった。
 ゆえに、父親によって封印されていた……はずだったが、

「この前ブギーさんに解除してもらって正解でしたね。こうも早く役に立つ日がこようとは……」
 そういって微笑む白髪の少年。しかしそんな彼の腕はみるみる痩せこけていく。
「やめろ、ラット!そのままでは君が燃え尽きてしまうぞ!いや、それだけではない。その影はすでにクロバードと同化しつつある。ゆえにその影を焼き払えば、彼もタダでは済まないことに……」
 制止を呼びかける少年の父親。
「大丈夫ですよ、父さん。彼はこの程度で死にはしない。なぜなら彼は黒き鳳凰。いかな聖火や業火に焼かれようと、不死鳥のごとく蘇ってくれる」
 確信があった。
 少年が発した白銀の炎は、ナイフを通じてクロバードの体に流れ込んでいく。
「おの、れ。狂之助から受けたダメージさえなければ、この程度の拘束……」
 内に流れ込む危機を悟りながら、しかし黒髪の少年は動けない。次第に彼の体からあふれ出る白銀色の光。
「それじゃあさよならだ、クロくん。ぼくが、君のパートナーを務められるのはここまでだ。でも、心配はいらない。いつか素敵な誰かが、きっと新しい、パートナーに……」
 光を発しながら、灰化していくラットの体。
「おのれ、善良なだけのクソガキが……!」
 絶叫する”クロバード”。
「邪悪なるものよ……。ぼくの相棒の中からでていけえぇぇぇぇぇっ!」
 爆発する白銀の炎。一瞬で蒸発する黒い影。
光に包まれた空間の中で、
 
「あ…………」

 最後の瞬間、理性を取り戻した俺が見たのは、光に消えゆく親友の笑顔であった。

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