![]() ――――――と、いう夢を見た。 「……剣………郎。剣…太郎」 耳元で囁くだれかの声。 「起きろ、剣太郎」 「ん…………」 何度目かの呼びかけでようやく目を覚ます。 「え、あれ………?」 気がつけばそこはいつもぼくが寝ている布団の中。 剣皇城皇爵用の寝室の床の上。 「…………結局夢オチですか」 思わずそうぐちてしまう。 「夢……?」 と、声はすぐ隣から。 「一体何をうなされていたのだ。剣太郎」 ぼくの横で同じ毛布にくるまりながら 視線と顔をこちらに向けて冥さん。 「冥さん、…………あなた、またぼくの布団に潜り込んで。 ちゃんとベッドを用意してあるのに」 「風邪でもひいたか? 寝ながら奇声を上げて見苦しいったらない。 隣で寝ている私の身にもなってみろ」 ぼくの抗議を無視して不満を口にする冥さん。 まあ、それも慣れっこ。 なんだかんだで気にかけてくれているようで、 ちょっぴり嬉しい気がしないでもない。 「ちょっと、夢を見ていたんです。とても、怖い夢を」 「夢…………?」 ぼんやりと天井を見つめ先ほどの夢を思い返す。 「今よりちょっと未来の大陸で…………、 ぼくが多くの人々を苦しめている夢………。 全てを力で解決して、 誰とも仲良くできない未来…………」 良くか悪くか記憶は霧散していて、 はっきりと思い出すことはできない。 それでも夢の中で抱いた嫌なイメージだけは 黒いヘドロのように胸の奥にこびりついている。 「あれは、ただの夢だったのかなあ」 それにしてはあまりに生々しい。 もしかしてあれはぼくの願望? ぼくが望む世界なのだろうか。 個人によって管理された新世界大陸。 見ようによっては邪悪だが、 戦いの中で多くの悲劇を目にするたびに、 もしかしたらそうすることでしか 平和な世界は手に入らないのではないかと 思ったことはなかったか。 もしそうなのだとすれば…………、 今の夢は紛れも無く、ぼくがたどるであろう未来の一つ。 「無理だな」 横の冥さんが呟く。 「え……?」 「お前にそんなたいそれたことはできない。 たかだか老人一人を殺したくらいで 罪悪感に苛まれているような小物には………」 嘲るようでいて、どこか柔らかな冥さんの言葉。 「それにそんな日は来ない。 なぜならそうなる前に………、 お前は私の手で殺されているのだから」 「そう………でしたね」 ゴロンと背を向けて冥さん。 らしくもない事を言って照れているのか、 あるいは自己嫌悪に陥っているのか、 こちらからその表情を伺うことはできない。 「要するに、お前が見たのはただの“嘘”だ。 だから安心して眠れ、剣太郎。 事あるごとに悲鳴をあげられては 私もおちおち復讐できない」 そう言って再び眠りにつく冥さん。 結局明確な答えはでないまま、 しかしなぜだかかぼくの心は安らぎを取り戻していた。 そう、仮にあの世界がぼくの願望であったとして、 それに立ち向かう“彼女”がいたのもまた事実だ。 そして、彼と彼女、 ぼくがどちらに肩入れしていたかといえば…………。 その心を大事にしよう。 そして回りの人達のことも大切に。 この先ぼくが間違いを犯したとして、 それを止めてくれるのは、 きっと回りの彼らなのだから。 ふと、壁に祀られている硝子の聖剣に目が留まる。 言い伝えによれば、 この剣には人の祈りを届ける力があるという。 しかもその力は 時間と空間を隔てられた世界においても なお通用するのだとか。 その透明な刀身に 一瞬どこかで見た彼女の姿が写った気がした。 『さあ、もう一度立ち上がるんだ、剣菜。 祈りは届くさ。 君がくじけさえしなければ』 ぼくの声は彼女に届いただろうか。 ぼくが彼女の生き方から大切なことを学んだように、 どうかぼくも彼女の力になれますように。 絶望の世界でそれでもたくましく生きる彼女たちに 希望の光が有らんことを。 「それでは…………お休み。剣菜」 そうして少年もまた眠りにつく。 一夜の夢の交わりはこれにておしまい。 それが現実となるのか、夢で終わるかなんて その時が来なければわからない。 剣太郎と剣菜。 二人は互いにとって本当の世界を生きてゆく。 エイプリルフール企画 クラウンアフター 完 |
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