そのあとのことはよく覚えていない。
 というのも、REIを限界まで使い切った直後に気を失ってしまったからだ。
 気が付いた時には病院のベッドの上にいた。
 私を助けてくれた金髪の彼の姿はなかった。なんでも新たな地獄が現れたとかで飛び出していったという。
 ちゃんとお礼ができなかったことが惜しい。思えば自己紹介すらまだだった。

 ともあれそうして、私は助かったわけだ。
 炎の地獄から生還し、仕事に復帰したのは一か月後のこと。その時にはすでに八大地獄事件と呼ばれた一連の事件は解決していた。
 復帰した私は今まで以上に精力的に仕事に取り組むことになる。そうして消防局のさらなる発展と被災者の救出活動に全霊を注いだ。

 そうした日々を送る中で、少しずつ私の心も前向きなものとなっていった。
 仲間達を見殺しにしたという罪悪感は、二度と悲劇を繰り返すまいという使命感に変わっていく。
 自分で言うのもなんではあるが、きっとそれはいいことなのだろう。

 ただ、一つだけ気がかりなことがある。
 今回炎の地獄から脱出したのは、私だけだったのではないだろうか?
 私を助けてくれた彼はどうなのだろう。いや、彼も助かったのはわかっている。あの直後意識を失った私を抱えて、灼熱地獄から連れ出してくれたのは彼なのだから。その後も彼に関するニュースはしばしば私の耳に入ってきたし。
 しかし、なぜだろう。私には今でも彼があの地獄に取り残されているような気がするのだ。あの炎の地獄、いやそれよりもさらに過酷な地獄の底で、苦しみもがき続けているように思えるのだ。
 朦朧とした意識の中で彼の言葉を聞いた気がする。

「しかしなんでだろうな………。俺は馬鹿正直にこの娘を助けて。この少女は俺の本性に気付いていた。だったら助けず置き去りにしたした方が得策だった気がするけど………」
 それは巨大な白銀の鳥の上。金髪の彼は私を抱えながら、
「いや、間違いではないか。これだけの力を持つ少女ならばきっと利用価値はある。だから助けたんだ。他に、理由なんて……」
 それがとても辛く悲しそうな声に聞こえたのは気のせいだろうか。

 いつか彼と再会しなければならない。そう思った。
 彼が背負っている”不吉”は、決して放置してはいけない気がしたのだ。
 今回彼は私を救ってくれた。ならば次は私が彼を救う番だろう。
 もし、それが私の手に余るものならば、せめてそのアシスト、後始末だけでもしなければ。

 そのためにはまず現状の仕事をひと段落させる必要がある。
 消防局の更なる発展を目指し、私無しでも支障が出ないようスタッフの育成に務めなければ。

 やがて訪れるであろう彼との再会を待ち、私は目の前の仕事に取り組む。

八大地獄事件アナザー
ユーリシア=クリスタレッジの憂鬱