DGワード外伝
最果てのグレイナイン


※注意
今回はいつもよりパラレル成分が強めです。
あくまでグレイナインが辿り着くであろう可能性の一つ、ぐらいにお考えください。
 


 いつだったか、こんな会話をしたことがある。

「君は革命児なのかもしれないね、グレイナイン」
「革命児、ですか?」
「そう。世の中をあるがまま受け入れ、多少おかしなことがあっても、『そんなこともあるよね』と受け入れてしまうのが、僕やカタナの生き方。
 それに対し、世の中で気に食わないことがあったら、『自分の手で変えてしまおう』と考えてしまうのが、君の生き方」
「それが革命児ですか?」
「そう。基準は自分にあり、それを世界に押し付けてしまう。よく言えば行動的。悪く言えばエゴイスト。ひょっとしたら、君は僕よりも、あの男の思想に近いのかもしれない」
 あの男とは誰のことなのかはっきり言わなかったけれど、何となく彼の宿敵である、あの人のことを指しているのではないかと思った。
「え、と。それは悪いことなのでしょうか?」
「さあ? それが良い風を起こすこともあるかもだし。つーか、僕のいないところでやる分には、世界に災いをもたらそうが、滅ぼそうが、勝手にやってくれとしか……」
「話を振っておきながら、まさかの無関心!?」
「……ただ。この先、君が旅をするならば、その行く先々で、君は“世界”を変えていくのだろう。君にそのつもりがなくても、いろんな人々が君の影響を受け、変わっていくに違いない。……まあ、変えていくのが君である以上、そう悪いことにはならないはずだけど」
 ここで窓の外に目をやりながら彼。
「ただ、そうやって世界を変えていけば、いずれ世界の方が君に反発することがあるかもしれない。世界の全てが君の敵に回る日が来るかもしれない。そうなれば君はかつてない、孤独な戦いを強いられることになるだろう」
 彼の視線は外の景色よりも遠く、遙か未来を見据えているようにも見えた。
「だからといって、僕にできることはないんだけれどね。そのころには死んでいるだろうし。だから本当に、ぼくには関係ないのだけれど……」
 ため息をつきながら彼。
 困っているような、嘆いているような……、何か重大な決断をする前の、私が一番好きな彼の表情だった。

「それでも、もし君が、あまりに過酷な戦いを強いられているようならば―――――」

 そのあと……、彼は何と言ったんだっけ?
 良く覚えていないけど、なにかとても嬉しいことを言われた気がする……。

「さて、無駄話はおしまい。さっさと荷物をまとめようか。何せ来週にはこの街を発つわけだしね」
 そう言って、カバンに荷物を積み込み始める彼。
 しかしその後、一度だけ手を止め、
「ところで、グレイナイン。君の古い装備ってまだあったっけ?」
 こちらに振り向き、そんなことを尋ねてきた。
「あれですか? あれだったらもう着ることもありませんし、マスタに預けてありますけど」
「ふ〜ん、カタナか。そういうことなら……」
「? あれがどうかしたのですか、先生」
 そう訊ねるも、その時彼はすでに、どこかに電話をかけているようであった。

 結局、この後は忙しくて、彼がどのような理由でそのようなことを尋ねてきたのか、聞けずじまいであった。
 私が彼の真意を知るのは、これより遙か未来の話である。