全く意味不明な質問であった。
 黄金の夜を追う資格……?一体何のことだろうか。
 秘宝調査機関ナイツにだったら加盟している。……が、今問われていることはそういうことではあるまい。
 そもそもクロラットが黄金の夜を追うことは許されるのか。問われているのは、そういうこと。
 しかしいったい何を許される必要があるのか。何を持って許されないのか。俺が黄金の夜を追うことに何の問題があるというのか。
「ぐ……」
 視界が揺れ、背筋が震える。なにかが、おかしい。
 何を動揺している。何を恐れることがある。こんなものはクロバードの罠に決まっているというのに。
 それが、わかっていながら……、何故だか俺は奴の言葉から考えをそらすことができない。
 そんな俺を微かに憐れむようにクロバード。
「本当に忘れてしまったのか、おまえは。そもそもなぜクロラットというパーソナリティは生まれた?なぜクロラットは黄金の夜を追わなければならない?そもそもあの時お前が■■■を■したのは……」
「うわあああああっ!」
 無様にも悲鳴を上げた。心臓の鼓動が跳ね上がった。
「なん……、なんだって?」
 いま、奴はなんといった?
 俺が、■■■を■した?
 何を馬鹿なことを言っているんだこいつは。
 そんなことはありえない。そもそもなんでこいつの口から■■■の名が……。
「ぐっ……」
 騙されるな。思い出すな。記憶の扉を開いてはいけない。
 そこにはクロラットの根幹を揺るがす重大な過ちが……、
 ぐにゃりと歪む視界の中、俺を楽しそうに眺めるクロバード。その不吉な笑みは、やはり先ほどまでのやつとは違う。
 奴の周囲にはやはり黒い影。そのあらゆる不吉を含んだかのような黒い影を………、俺はどこかで見たことがあるような気がした。
「あれは……」
 いつのことだったか。
 白銀の空間。血まみれで叫ぶ誰か。白と黒の鍵が交錯したとき、生き残ったのは……、
「ぐぅっ……」
 突如襲いくる頭痛と吐き気。湧き上がった記憶に慌てて蓋をする。
「どうした、クロラビット!?」
 気遣うヴィオの声。しかし今の俺には届かない。戦場にありながら、俺は一瞬完璧に自分を見失った。
 ゆえに気付けなかった。俺とクロバードを結ぶ直線上に、一瞬だけできたシールドの亀裂を。
 そこに、
「終わりだな、クロラット。最後まで欠陥品だったな。貴様は」
 隙間を通すかのように何かを投げつけるクロバード。
 四重の結界を通り抜け俺の足元に落ちる何か。それは秘宝の鍵の一つ、炎王の鍵であった。
 光輝く炎王の鍵。
「しまっ……」



 あわてて鍵を取り出そうとしたところでもう遅い。
 炎を纏い現れたのは空虎首領こと、炎の魔人ホムロ=カガリビ。
「一歩、遅かったな」
 目の前に立つ彼の燃え盛る拳が、俺の胸に叩き込まれる。
「がはっ!」
 受け身をとる暇もない。
 血反吐ぶちまけ吹っ飛ばされた俺は、そのまま背後の石垣に頭を打ち付け、意識を失った。


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