赤きREIドール


 緋色の空の下に爆音が鳴り響いた。

「セブン兄さん!」

「どうやら“奴ら”が来たようだ。君は行け、ナンバーナイン。奴らは俺がくいとめる」

 周囲のビルの窓ガラスが震える。立ち上る土煙。その向こう側に見える5つの影。

 それと向き合いながら、赤い背中越しに彼は告げた。

「しかしあなた一人では……」

「このまま奴らの好きにさせれば“あの事件”の再現になってしまう。それは許されまい。そうなればいよいよこの街から俺達REIドールの居場所が失われてしまう」

 全身を包む赤い包帯。白髪にさらされた黄色い隻眼は正面の影を見据えたまま。

「心配はいらない、妹よ。わが第七の右腕は至宝の宝剣。いかに強力な敵が相手といえど、この腕の輝きが途絶えぬ限り俺が敗れる道理はない」

「セブン兄さん……」

 どこまでも愚直で不器用だったこの人は、それでもこの時だけは無理をして微笑んだ。

 REIドールドリムゴードシリーズ7番機。通称セブン。

 先日“遺跡”から目覚めた彼は、自分の同系機にして、兄とも呼べる存在であった。

「君にはまだやるべきことがあるはずだろう、ナンバーナイン。彼とマスタ。彼らがドリムゴードにたどりつくためには君の力が必要だ。俺と君。どちらかしか彼らと共にいられないというのなら、やはり共にいるべきなのは君なのだろう」

 土煙が晴れる。そこに立っていたのは5体の人形。

 風貌こそばらばらであるものの、身にまとった呪符帯は紛れもなく自分たちの兄妹である証。

 しかし彼らの顔には覇気がなく、まさにその表情は心ここにあらずと言ったところか。

「すでに2番機から6番機は浸食されていたか。1番機と8番機は行方不明。となると今彼らを止められるのは俺だけか」

 苦々しげにセブン兄さん。そうして5体の人形を割って現れるもう6体目のREIドール。

「ドリム……ゴード」

 震える唇から紡がれるのは底知れぬ怨嗟。

 眉を顰め、唇を震わせる彼の表情はまさに生ける亡者そのもの。

「来たな。忌まわしきREIドール、バーナル=ブレイよ」

 向かい合うセブン兄さん。

 真白き肌に黒い呪符帯。風になびく金髪は獅子の鬣のごとく。

 彼の名はバーナル=ブレイ。数多のREIドールの中でも最も暗黒シティに名の知れ渡った人物。

 3年前、人間達に反旗を翻し、現在の暗黒シティにおいて新型REIドールの開発が禁じられることになった元凶ともいえる人形。

「なぜ凍結処置を施されたあなたが今になって目覚めたのか……。しかも眠っていた兄さんたちまで引き連れて。俺も、彼らもこの街の底で夢を見続けていられればそれで十分だったのに……」

 悲しげにつぶやく兄さん。

「しかしこうして立ち会ってしまった以上、見過ごすわけにもいくまい。REIドールの暴走を止めるのはREIドールの役目だしな……」

「引き起こす……、過ちを……防ぐいずれ来る崩壊……」

 はたして兄さんの言葉が聞こえているのか、視線を漂わせながらバーナル=ブレイ。

 苦悶の表情はさらに歪んでいく。肩を震わせ呼吸を荒らげる彼の有り様は、難題を前に苦悩する求道者を思わせた。

「与えられた、使命。創造主の、意思。防がなければ、因果の崩壊。ゴード……ハード!」

 次の瞬間、黒き人形の瞳に火が灯る。

 咆哮と共に放たれたREIの嵐は小規模な台風そのもの。

「破壊する、ドリムゴードシリーズ……。ゴードハードに因果を持つものは、すべて、抹消する」

 ぎょろりと向けられた彼の視線は、自分たちを破壊対象として認めた証だろう。

「やはりやらなければなるまいか。しかしこんな闘いに何の意味があるのか。まあ妹達の未来を守るためと思えばやる気が出ないこともないが……」

 右腕の呪符帯を解きながら兄さん。

 輝きと共に現れる右腕。膨大なエネルギーを放つそれは希少金属ナナリウム製、兄さんを高性能攻性REIドールたらしめる象徴ともいえる武器であった。

「では参ろうか。我はドリムゴードシリーズ7番機。いずれ果されるべく夢を守るべく、俺は貴様を破壊する。
 バーナル=ブレイ。………いや」

 右腕をかざし突進してくる影を迎え撃つ兄さん。

「兄者。REIドールドリムゴードシリーズ0番機、ゼロ=ドリムゴード!!」

 激突する赤と黒。そこから生み出された凄まじい衝撃波が周囲の瓦礫を吹き飛ばすのであった。




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