PART 5




 私がその言葉の意味を受け入れるのに、たっぷり1分を要した。

「何?なんですって?」
 ちょっと本気でわからない。今、この女はなんといったか。
「黄金の夜が、何?」
 人間の視野に限界があるように、理解力にも限度がある。
 あまりに途方もない事実は、受け入れるまで一定の時間を要するのだ。
「黄金の夜だというのか?あなたが……」
 そう呟いたのは隣にいるセブンくんであった。
「ほかの何でもなく、あなた自身が黄金の夜だと?」
 ………どうやら、私の聞き違いではなかったらしい。
 目の前の彼女は自分が黄金の夜だといったのか。
 黄金の夜に関わりがあるとか、手がかりを知っているとかではなく、自分自身が黄金の夜だと……。
「そうですね。黄金の夜をどう定義するかによって、多少事情が変わって来るのですが………。まあ世間一般で言われている黄金の夜であるのならば、私のことを指すのでしょう」
 あっけらかんと獣耳。
 そこに私たちを騙そうとか陥れようとかいう意図は感じられない。むしろ疑いたければ疑えばいい。それで事実が揺らぐわけでもないし、とでも言いたげである。

 ちなみに、“黄金の夜人間説”というのは大分昔からあったりする。
 黄金の夜は宇宙人だのUMAだの、まあ無数にある説の一つとして。

「つまり、それが正しかったということ?」
「ああいえ、違います。そういうわけではないんですね」
 と、思っていたところに、彼女から否定が入った。
「確かに今の私は人間に近いのですが。こうなったのは結果論というか。私にとっても想定外だったというか……」
 何やら歯切れの悪い彼女。
「どう説明したものでしょうかねえ」
 唸りながら彼女。もしかしたら、人に説明することに慣れていないのかもしれない。
「あの。いいから、全部お話してくれますか?必要な情報はこちらで拾いますので」
「いいんですか?」
 私の提案に目を輝かせる獣耳。その横で、また一本の鉄骨が崩れ落ちる。
 このままここにいれば、やがてはドームの崩落に巻き込まれるだろう。
 しかし構わない。覚悟を決める。この機を逃したら次真相を知る機会があるとは限らないし。
「それに………」
 横に倒れている死体に目をやる。
 そう。どうせ真実を知るのなら、彼の横で一緒に聞きたい。それが彼のパートナーとなった私の望みであり、義務だろう。
「それではお話しますね、」
 一方で若干テンション上げ気味の獣耳。
「すべては太古の世界にて始まったことなのですが―――」

 そうして私は知ることになる。
 この黄金の夜を名乗る少女が語る真相を。
 そして、全ての発端となった古代世界の戦争の話を。


 戻る  次へ