Birthday


 
 

 

「あっ、クロバードくん。またぼくの財布からお金を抜き取っただろう!ちゃんとお小遣いは渡しているのに………」

「るっせえなあ、文句あるかよ。そもそも俺は泥棒だぞ?泥棒が人の財布から金を盗みとって何が悪い」

「うん……、そうだな。そういう事なら納得するしかないか………」

「いや、納得するなよ。……ったく相変わらず無駄に人がいいよな、ラットは」

 

 この暗黒シティを訪れてしばらくして、俺には一人の友人ができた。

 

「どうして君はいつも、人を困らせるようなことばかりするのかなあ、クロバードくん」

「しみじみ言うなっつーの。いいんだよ、俺は悪党だし。悪党は長生きできないっていうだろ?だったらやりたいと思ったことは、思ったうちに片付けていかないと、後々心残りになるしな」

「どうかなあ。なんだかんだで君は、けっこうしぶとく生き延びるほうだと思うけど」

「それに引き換え、おまえみたいな善人は長生きするからな。せいぜい今のうち回りにおべっかを使っとけばいいさ。そうすりゃそのうち利子つきで、莫大な金やらなにやら転がり込んでくるだろ」

「だからそう言いながらまた、ぼくのポケットから財布抜き取るの、やめてくれないかなあ……」

 

 そう苦笑いした少年は、あの晩、ある事件において命を落とした。

 面倒見がよく、日々善行を積み重ねてきた彼は、その見返りを受けることもなく短い生涯に幕を下ろした。

一方、同事件において同じく命を落とした俺は、紆余曲折を経て汚らわしくも生き延びる。

 

 どうして許すことができようか。この不条理な結末を。

 善人であった彼が死に、悪人であった俺が生き延びた。

 死ぬべきは俺だったはずだ。生き残るべきはあいつだったはずだ。

 なのに彼は俺のヘマを肩代わりし、満ち足りた顔で息を引き取った。

 

認めることなどできない。無為に死んでいったあいつを。

許すことなどできない。無様に生き延びた自分を。

 過ちは……正さなければならない。

あの晩死んだのは、この俺、クロバードであったはずなのだ。

 

そう、この俺クロバード=ルル=クロックスは、あの事件において命を落とした。

 だったら今蘇った俺は……?


 ぼくは…………?

 

 二人の少年を死に追いやった、運命の事件。

 片方の少年は去り、残された少年は死んだ彼の生き方を継ぐ。

 それがなんの弔いにならないと知りながら、それでも彼の名前だけでも“かの夜”へ届くよう、少年は道化を演じ続ける。

 

 二人分の人生を一人で背負い、少年は黄金の夜を目指す。

 

『僕達はいい友達になれると思うよ、クロバードくん。ぼくの探偵としての力と、君の怪盗としての力。2つが組み合わさればきっとドリムゴードにだって手が届く』



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