見渡す限りの大草原を導かれるように前へと進む。

空は青く、風は穏やか。
文明の欠片さえ感じられぬその景観は、
まるで神話かおとぎ話の世界に
紛れ込んでしまったかのよう。

しかし誰が知ろうか
かつてこの地にもっともカオスで煌びやかな
黄金郷が栄えていたなどということを。

「よく来たね、刀也君」

そうしてどれだけ歩いたことか、
草原の中心で彼女は僕を待っていた。





いつものながら静かで柔らかな彼女の眼差し。
しかし今日ここで彼女と会うのは、
いつものように宿題の答え合わせや世間話をするためではない。
この地にあるのは自身の過去。
そして自らの運命との対峙。

物心ついたころからわかっていた。
自分はこの世界とは相容れない。
きっと違う世界の住人なのだと。

それは孤児だったことや、
並はずれた身体能力を備えていたからというだけではなく。
もっと本質的な部分で、
自分の居場所はこことは違うどこかにあると
理解していたのだろう。

「それは難しいことね、刀也君。
なぜならあの世界はすでに閉じてしまっている。
それを覆すことは世界に戦いを挑むのと同じ。
そしてあの世界において幼子にすぎなかったあなたに
できることはほとんどない」

静かに諭すように告げる彼女。

「それにうまくいくとも限らない。
過去への介入には巨大なリスクを伴う。
そうして失敗したとき、その余波を最も受けるのは、
ほかならぬ未来において生きるあなた……」

そうまでして、進む意味があるのかと。
今の世界では不満なのかと。
無言の眼差しで訴える彼女。

それでも、

「それでも、僕は知りたいんだ。
自分のルーツを。
生まれてきた意味を。
それを知ることができるのなら僕は
世界敵に回すことも恐れない」

覚悟は決まっていた。
もとより確信があったのだ。
あの日屋上で彼女と出会った日から、
いつかはこの日が来るのだと。

「……あなたの覚悟は理解した」

あきらめたように溜息をつく彼女。

「では今よりあなたの存在を過去のこの地に送り込む。
そこであなたは10の大事件を廻ることになる。
その中であなたは探らなければならない。
この街を滅ぼした原因を。
この一連の事件すべての“中心”にあったモノを」

振りかざした彼女の手からあふれ出る緑の光。
それは陣風を伴い世界を塗り替えていく。

「それは事件の名前でもあり、
戦争の名前でもあり、
犯人の名前でもある。

全ての中心であり、
きっかけであり、
根幹にあったもの」

光が世界を飲み込む直前、
彼女の最後のつぶやきが聞こえた。



「すなわち……、ゴードハード」





 前へ  次へ